45 二人の戦い 【45-6】

【45-6】

いったい、この人は今、何を考えているのだろう。

不安に押しつぶされそうになりながらも、ここまで来てしまったけれど。

先日話を聞いた、感情をぶつける下請けの社長さんより、

折原さんが妙に冷静に見え、逆に怖い。


「長峰さん」

「はい」

「『駅ビル』の件、テレビの件、今までの高梨のやり方をずっと見ながら、
俺は、父の仕事を思い出してました」


高梨さんのやり方。

低予算で徹底的に合理化を進め、利益を生み出すためには、強引なところも見せる。


「父も、『折原製薬』の化粧品部門を取り仕切る社長として、
売り上げを伸ばすためには、毎日必死に動いていたと思います。
偉そうに椅子に座って、人を動かしているだけの人ではなかったですから」


お父さんの話し……

ここのところ、折原さんの口から、語られることが増えた。

以前は、家族のことに触れることさえ、強い拒絶があったのに。


「でも、父の頭の中にあるのは、いつも数字、それと結果。
確かに、企業なのだからそれは大事だけれど、『愛』とか『情』なんて……
どこにもなくて……」


折原さんのお父さん。

この間、側近に囲まれて歩いている姿を、思い出す。


「会社から消費者の手に渡るまで……あの人の商売はそこが全てなのです。
どういういきさつでも、売れたらそれが結果になる。
でも、俺は違うと思うんですよ……」


折原さんは、手に持っていた茶色の封筒を開けると、それをまた閉じた。

あの封筒の中には、そういえば、何が入っているのだろう。


「商品を手にした人が、ちゃんと笑顔になれたのか、
それからどういう出来事が起きたのか……それを知ることも俺は商売だと思うんです。
よく、昔はそんな話をチュースケにしていました」


折原さんの考えが正しいのかどうか、わからないけれど、

私もいつも、家具を手にした人たちのその後は、気になっている。


「ここの男も同じです。小菅さんや『ガーディル』を好き勝手に動かして、
結果、自分だけが得をしようとしている」


確かにその通りかもしれないが、そういう人だからこそ、人よりも先を行き、

会社をここまでにしたのかもしれない。


「経営者というのは、そういうものなのでしょうね。
だから、俺は社長に向きません」


その時、扉が開き、高梨さんが私たちの前に現れた。

とりあえず私は立ち上がり、頭を下げる。



しかし……入ってきたのは、高梨さんだけではなくて……



「あぁ、お待たせして申し訳ない。長峰さん、どうぞ座ってください。
『MARBLE』に打ち合わせで出かけていたもので。
どうぞ、折原さんもこちらに座ってください。今、何か飲み物でも……」



どうして……ここへ。



「古川さんが、これから折原さんと会うのだと話したら、ぜひ同席したいと……」



紗枝さん……



「すみません……ここに私がいるのは、迷惑かしら」


紗枝さんの目が、私を見る。


「迷惑かしら、紘生」


折原さん、どう答えるだろう。


「別に誰がいてくれても構わないよ。時間を急に作って欲しいとお願いしたのは、
こちらだから」

「それではここへ……」

「そうですね」


窓のそばに立っていた折原さんが、私の横に腰掛けた。

私たちと、高梨さんと紗枝さん。

全く、予想外の雰囲気になってしまった。


「これだけのメンバーが揃ったのですから、こんな事務所の中ではなくて、
もっと、いい席を取ればよかったですね」

「いえ、結構です。あなたと食事をするつもりはありませんから」


折原さん……


「あはは……いきなり、そんなふうに言わないでいただきたいな。
折原さん……いや、あの『J』にこうしてお会いできたのですから、
私も、色々と伺いたいこともありますし」



『J』



折原さんの経歴を知る高梨さんは、わざとその名前を使った。

隣に座る紗枝さんに、『J』という名前で、

折原さんが外国で賞を取ったことを知っているかと、高梨さんが問いかける。


「古い名前を……」

「古い名前でしょうか、私にとっては衝撃的でしたので、
頭から消えることはありませんよ。今でもうらやましい限りです。
そういう誇れるものがあることは」

「誇るつもりなどないから、取れたものです。欲と言うもので、目が曇ってしまうと、
見えなくなるものがたくさんあるでしょうから」


折原さん……言い方がキツイ。


「あはは……そうですね。無欲ということですか。それは今の私には無理なことです。
これでも、社員の生活を背負っていますので」


扉がノックされ、先ほど私たちを出迎えてくれた女性が、

コーヒーを4つ持って来てくれた。私はそれを受け取り、それぞれの前に置く。


「紘生……高梨さんに対して、そんな言い方はないわ。あなたの才能を認めて、
『コンスタン』に入れば、チーフとして迎えてくれるという条件は、
悪くないはずでしょう」



……チーフ?



「古川さん……それは」


高梨さんが、紗枝さんの発言を止めた。

『チーフ』というのはどういうことだろう。

横にいる折原さんの方を向くと、その目は紗枝さんを捕らえていた。




【46-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
漢字の『十』と『八』で合わせると『木』という字になることから、
10月8日は、『木の日』になっている。(昭和52年から)
ちなみに、108で入れ歯感謝デー・歯科技工の日でもある。

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コメント

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拍手コメントさん、こんばんは

一番報告、ありがとうございます。
楽しみにしてもらっているのは、とっても嬉しいので、これからもぜひぜひ、一番に……
創作も、エンディングに向かって、一歩ずつ進んでいますので、
最後までおつきあいくださいね