46 孤独な目 【46-2】

【46-2】

「折原さん、これ」

「高梨さんに差し上げますよ。右は低価格用。左は……」

「折原さん、ちょっと、これ……」


デザイン画を出してしまうとは、思わなかった。

あれだけ苦労して形にしたのに。


「長峰さん」


これは企業秘密と、言えるものなはず。

私の動かそうとした手は、折原さんの視線と声に止められる。


「高梨さん、あなたはこのデザインに勝てないとそう思い、
うちに勝負から降りるよう、仕向けたのでしょう」


デザイン画。

細かいラインから、引き出しの幅。

『FREE』を研究し、色々と考え出したもの。

右のライトを添えるポイント、描けたときには、伊吹さんにも褒めてもらったのに。

こんなことをして、高梨さんがありがとうと受け取るわけがないことくらい、

わかっているはず。


「さぁ、どうぞ」


茶色の封筒に入れてきたのは、このデザイン画だった。

今回は使えなかったけれど、他にまた、使うことが出来たかもしれないのに。

出してしまったら、もう、使えない。


「遠慮なくお使いください。このままなかったことにしてしまうには、
もったいないくらいの出来だと思っています。まともに相手と勝負をせずに仕事を得て、
たいしたデザインではないものを、それなりの値段で買わされる消費者がかわいそうだ」


高梨さんの顔、私たちを迎えてくれた時には、穏やかだったし、

紗枝さんが色々言っても、少し前までは余裕の笑みがあったのに、

今は、目はつりあがり、唇をかみ締め、完全に怒りモードになってしまった。


「紘生……」

「黙っていてくれと言ったはずだ」


紗枝さんは開きかけた唇を少し噛む。

今の折原さんの状態がどういうものなのか、わかっているから。


「ただで差し上げますから、自分たちが作り上げたように、盗んだらどうですか。
あぁ、それとも、これでは物足りないですか? 全てお持ちしたほうがいいと……」

「……何を……」

「利益のために、人の心を弄べるあなたなら、誰がどう傷つこうと、
何が別の場所で起きようと、そんなことどうでもいいことでしょう」

「折原さん……」


止めることなど無理だった。

折原さんは、ただ、『ガーディル』のことだけで荒れているわけではない。

私は、どうするべきなのかわからずに、ただ、二人のことを見るだけしか出来なくて。


「俺は、自分が作っているものに、自信を持っています。
いや、『DOデザイン』のメンバーが送り出すものならと、そう思っています。
だから、どんな条件を出されようと、何が正しいと勝手な持論を並べられても、
あなたとタッグを組むつもりはありません。それはあらためて言わせてもらいます。
天地がひっくり返ってしまっても、絶対に……」


高梨さんと紗枝さんがタッグを組み、折原さんを引き込もうとした事実。

それに対する、完全な決別宣言。


「いくら小細工されても、『折原』の名前を出されようと、
俺の気持ちは変わりませんから」


私が知らなかったことが、色々と、折原さんの周りでは起きていた。


「高梨さん、あなたに『DOデザイン』がどう写っているのか、わかりませんが、
あなたが思うほど、うちのメンバーは軽くありません。少なくとも、
あなたよりも仕事相手のことを思い、家具を購入する消費者のことを考えています。
『人の心に寄り添い続けること』。それが社長の信念だと、俺は面接の時に、
言われましたから」


人の心に寄り添い続ける……

時には子供の頃の思い出と、そして、重ねた人生を織り込んだようなもの、

そして、大好きな人と、一緒にお茶を飲むためのもの……


家具自体に感情はないが、使う人によって風合いを増していく。

人の気持ちが、移しこまれていく。


「本来なら、ライバルとして戦う別の企業にも、同じ思いを持ってもらいたい。
しかし、『コンスタン』さんは、そういう会社ではなさそうですから、
これからも、色々と手を尽くして、うちの邪魔をしたほうがいいですよ。
力のある会社に媚を売って、取り入るのもいいでしょうし、
ドラマなどでアピールすることもいいでしょう……」


高梨さんは、折原さんの言葉に反応することなく、黙っている。

そして、言葉が止まった瞬間、先に出したデザイン画を1枚手に取ると、

私たちの目の前で半分に破った。


「あ……」


そして、片方の紙も取り、また半分にしてしまう。

テーブルの上には、倍になった紙。



あれだけ必死に取り組んだのに……



「ばかばかしい」

「ばかばかしいと思うのなら、それでも結構です。
しかし、せっかくこの場が出来たのですから、俺なりに言わせてもらいました」


折原さんはそういうと、初めて出されたコーヒーに軽く口をつけた。


「紗枝」

「何?」

「自分自身が表に出て、戦うつもりがないのなら、君も『MARBLE』も一緒だ。
誰かの力を利用して、何かを得ようとする。そんなことを繰り返していたら、
何も残らなくなるぞ。言いたいことがあるのなら、紗枝自身の言葉で伝えないと」


テーブルにある、破られたデザイン画。

『こだわったカーブ』も、『ライトのポイント』も、もうズタズタ……


「言わせておけば……」


今まで見たこともないような、高梨さんの目。


「折原さん、あなたこっちが下手に出続けたのをいいことに、
好き放題に言ってくれますね。盗むだの、媚を売るだの。
それほど怒りを持っているのは、『ガーディル』のことでしょうが、
向こうは商品を見てうちを選ぼうとしただけだ。どんな基準でものを選ぶのか、
それは消費者が決める。『DOデザイン』さんのことを知り、
手を引いてあげたのはうちの方ですよ。感謝されるのならともかく、
こんなふうに言われるのは筋違いだろう」


手を引いてあげた……って。


「価格だけを見れば、『コンスタン』に気持ちが傾くのも無理はないですが、
商品をしっかり見れば、触ってみれば、使ってみれば、どちらがいいものなのか、
わかる人にはわかります。『ガーディル』もそう、
うちに戻したいとそう言われることを予想して、あなたは利用しただけだ」


高梨さんは、折原さんが話している間も、紙をさらに破り続け、

私たちのデザイン画は、何が描いてあるのかわからないくらいになる。



紙……足元にも散らばってしまった。



「高梨さん、あなたの勝負は、いつも場外戦だ。『林田家具』という大手で学び、
自分の仕事にさらなる力をつけるために、独立したのでしょう。
デザインを愛し、本当に出来ると思うのなら、小細工をせずに、
それを前に押し出して勝負すればいいはずだ」


二人の言いあいを、どこかで止めるつもりだった。

そこまでという線を、それなりに考えてきたつもりだった。

でも、私にはその力がないことが、あらためてわかる。



私は……

この話しの中に、何一つ、関われていない。




【46-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材は材木の中にある精油成分により、それぞれ特有の香りを持ちます。
ヒノキやヒバは抗菌、クスノキやヒバは殺虫、
ヒノキやスギには、防ダニの効果があると言われています。

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