46 孤独な目 【46-4】

【46-4】
「返してください。それは私たちの……」

「紘生は捨てたとそう言ったわ。あなたにも拾うなと言っていたでしょ。
それとも、本当にこれを出すつもり?」


確かにそうだけれど……


「高梨さん、私がお邪魔したために、話が変な方向にそれてしまって、
申し訳なかったです」

「いえ……」

「こうなったら、紘生にしっかりと現実を思い知らせてやってください。
世の中を動かすのは、どういう人たちなのか。正義だなんだと言っても、
結局は思い通りにならずに地団太を踏む人間は、そのままなのだから」


紗枝さん……


「お先に失礼します」


茶色の封筒を持った紗枝さんは、私よりも先に『コンスタン』を出て行ってしまう。

追いかけて封筒を戻して欲しいと言わなければならないが、一歩が出ない。



どうするのが正しいのか、私にはわからない。



「長峰さん」

「はい」

「これだけは、言っておきます。あなたをうちの会社にお誘いしたのは、
折原さんのことがあったから……それだけではありません」


『コンスタン』へと言われた日。

移るつもりはなかったけれど、それなりに認められたことは嬉しかった。


「あなたの言うとおりです。デザイナーにとって、デザイン画は命と同じもの。
いくら折原さんに挑発されたとはいえ、ここで冷静さを失って、
破ってしまったことは、謝ります」


私は黙って首を振る。

破るように仕向けたのは、間違いなくこちらの方だから。


「高梨さん……」

「でも、プレゼンのことは譲りませんよ。あれだけ完全に決別されたのですから。
もう、折原さんをうちに……とは考えません。
こうなったら、古川さんの言うとおり……」



紗枝さんの言うとおり。



「叩きのめすまでです」



叩きのめす……

あと10日しかない。その中で数多くの企業と競い合うデザインを考えないとならない。

しかも、一度出したアイデアは、こうなると使えない。


「必ず、出てくださいね」


『無理』だという言葉を、ここで何度言ってみても、高梨さんの答えはNOだろう。

挑発したのは折原さんで、あれだけのことを言ってしまえば、

こうなることも……


「実は、古川さんに、『MARBLE』の仕事をきっかけにして、
家具デザイナーという仕事を、折原の人間に認めさせて欲しいと、
そう頼まれたのですよ」


高梨さんは、『コンスタン』が『MARBLE』の仕事を請け負うことが決まったあと、

家具デザイナーというものがどういうものかということを、

折原さんの両親を始めとした親戚たちに認めさせたいと、相談した。


「何かトラブルがあれば、途端に経営まで危うくなるような小さなデザイン会社では、
折原のご両親も納得しないでしょうが。うちなら……そう、彼の実力があれば、
チーフとして迎え、私は経営者として会社を運営していけたらと、
そう思ったことは事実です」


『肩書き』

確かに、あのお母さんの気持ちを考えると、紗枝さんが頼んだ理由も、

わかる気がしてしまう。


「しかし……彼にはそれが完全に読まれていた。ブランドだの、名声だの、
そういうものの中に、入ること自体を拒絶するつもりなのでしょう。
でも……世の中はそう思うようには動かない。それはわかってもらわないと」


高梨さんはそういうと、コーヒーのカップを手に取った。

窓から外を見ながら、黙って口をつける。


「『DOデザイン』さんとの再会、楽しみにしています。
デザイン勝負……正々堂々とやりましょう」


高梨さんはそういうと、少しだけ笑みを見せた。





『コンスタン』から出て、駅に向かう。

プレゼンに、普通の状態で出られるのなら、

もう一度頑張ろうと、思うことが出来るかもしれない。

でも、ハンデはあまりにも大きすぎる。



『10日』



どうしたらいいだろう。

重たい足を、なんとか進めていると、公園のベンチに折原さんが座っていた。

私はベンチの前まで向かい、一度大きく息を吐く。


「私が今、どういう気持ちでいるのか、わかりますか」


折原さんが『コンスタン』に誘われていたことも何も知らず、

頑張って描いたデザイン画は、破られてしまった。

悔しさと情けなさと、悲しさ……



『プレゼンに出てください』



そして、不安が全てを押しつぶしている状態。


「どうして何も言ってくれなかったの。『コンスタン』に誘われていたこと、
私、紗枝さんが言わなければ、何も知らずに……」

「迷いもしていないのだから、言う必要もないと思った、それだけです」

「迷っていなくても、こんなことがあったと、話してくれたらよかったのに。
そうしてくれたら、私、自分が誘われた時にも、利用されていると気付かずに、
どうしようかと思ったりして……」


たとえライバル会社であっても、ジュエリーボックスから評価されたことが、

嬉しかったのは確か。


「あれは紗枝が勝手に言ったことです。あなたが誘われていることを知って、
俺を一緒に動かそうとしているからだと、そんなこと考えるほうがおかしい」

「今日だって、『デザイナー』として話をするのだと、そう言って。
あれでは、ただのケンカです。嫌みをぶつけて、互いににらみ合って……」

「デザイナーとして勝負をしていないのは向こうだ。
俺は勝負の場所に、引きずり出したい」



『プレゼンに出る』



高梨さんに言われたことだけど、でも、本当は伝えたくない……

でも、ただでさえ10日しか日にちがなくて。

迷っていたら時間がどんどん減っていくけれど。

ここで伝えたら、口に出してしまえば、

折原さんはどんなにハンデがあろうとも、出て行くことを決めるはず。



私は……どうすればいいのだろう。




【46-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材は材木の中にある精油成分により、それぞれ特有の香りを持ちます。
ヒノキやヒバは抗菌、クスノキやヒバは殺虫、
ヒノキやスギには、防ダニの効果があると言われています。

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