46 孤独な目 【46-6】

【46-6】
私が戻ってきてから、すでに1時間が経過した。

抱えている仕事がない……わけではない。だから、少しでも進めていかないと。



『あなたには……無理です』



10日後のプレゼンなんて、どう考えても無謀なはず。

社長と伊吹さんなら、それをちゃんと折原さんに伝え、説得するだろう。

そして、もし、間違ってプレゼンに出ることになっても、

折原さんに無理だと宣言された以上、私が手伝うことはない。


伊吹さんや道場さん、

私よりも数倍実力がある人たちが、揃っているのだから。


扉の動く音がして、3人が姿を見せた。

社長も伊吹さんも、何が楽しいのか笑っている。

一緒に戻ってくると思っていた折原さんは、姿がない。


「打ち合わせ、明日だったな、伊吹」

「はい。向こうの社長が楽しみにしていると、そう……」

「うん……」


折原さん、どこに行ったのだろう。

伊吹さん、PCを広げ、仕事を始めてしまう。


「伊吹さん……」

「ん?」

「あの……少しお話が」


伊吹さんは、私が何を聞きたいのかわかっているのだろう、

小さく頷くと、屋上を指差した。





日が暮れていくのが、またずいぶん早くなった。

住処に戻ろうとするカラスたちの鳴き声が、遠くに聞こえる。


「プレゼンのことだろ」

「はい」


伊吹さんは、そうだろうなと笑い、やはり今まで3人でその話をしていたと、

教えてくれた。折原さんは、10日後のプレゼンに出たいと、社長に訴えたという。


「10日しかありません。無理です」

「あぁ……俺もそう言った。いくらお前でも、ハンデがきつすぎると。
今から積み上げるとしたらと言おうとしたら、あいつ、紙を出してきた」

「紙……」

「そう、始めからケンカをふっかけて、
高梨に土俵へ上がるように言わせるつもりだったのだろう。
あいつの中には、すでに半分くらいデザインが出来ている」


半分……


「本当ですか」

「うん……まだ、だいたいの形だから、予算だとか、素材だとか、
細かいところが詰められていないけれど、ゼロではないようだった」


折原さんは、この数日間の中で、新しいものを頭の中で作っていた。


「そうですか……」

「あぁ……それでも、普通の状態なら、俺も社長もOKを出さない。
ただ、今回は、あいつの思いがそこにあるみたいで」

「思い……ですか」

「勝っても負けても、『コンスタン』との勝負をしなければ、
自分の思いが前に出せないからと……そう言っていた」


『コンスタン』の仕事振りを見ながら、折原さんは何度もお父さんの名前を出した。

不利だとわかっていても、勝負しなければならないと思うのは、

お父さんに対する、折原さんの意地なのだろうか。


「長峰も知っているだろう。うちの社長は、熱意に弱いこと」

「はい」


そう、社長は熱意に弱い。

無理だと思っても、『思い切っていけ』と背中を押してしまう。


「お前がそう思うのなら、戦って来いって、送り出してしまった」

「……本当ですか」

「あぁ……」


決まってしまった。

もう、私にはどうすることも出来ない。


「あいつ、一人でやるって言っていたな」


私は、一緒に仕事をするのは『無理』だと言われたことを、伊吹さんに話した。

実力がないと、思われているのだろう。


「実力不足」

「はい。きっと、何もなければ『FREE』に提出するつもりだったデザインも、
折原さんにしてみたら、納得できないものもたくさんあったのでしょうね。
でも、あんまりガンガン言うと、私がへこむから、我慢していたのかも……」


低価格のものは主に折原さんが担当し、高価格の方は主に私が担当した。

それが、今日破られてしまったデザイン。


「実力不足……か」

「はい」


伊吹さんはタバコに火をつけると、軽く吸い込んだ。

私は、伊吹さんに、折原さんのデザイン協力をお願いできないかと、頼み込む。


「俺が?」

「はい。一人で全体像を考えたとしても、細かいところをフォローする人がいなければ、
時間がかかります。10日しかないのに……それも一人でこなすのは」


こなすことは、無理だ……


「長峰の気持ちはわかるけれど、俺は遠慮するよ、
今のあいつの熱意にはとても近づけない」

「伊吹さん」


伊吹さんにそんなことを言われてしまったら、

誰にフォローを頼めばいいだろう。


「長峰が、やってやればいい」

「出来ません、私の実力では……」


そう、私はハッキリ、『実力不足』だと言われたのだ。

それなのにウロウロするほど、心は強くない。


「あのさ、ここからは、俺の考えだから黙って聞いてくれないか」


伊吹さんは、折原さんが社長と伊吹さんに語った言葉から、

おそらくこうなのだろうという答えらしきものを導いたと、話し出した。




【47-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材は材木の中にある精油成分により、それぞれ特有の香りを持ちます。
ヒノキやヒバは抗菌、クスノキやヒバは殺虫、
ヒノキやスギには、防ダニの効果があると言われています。

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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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