47 我らの場所 【47-2】

【47-2】
壁にかかった時計は、21時。

事務所には、もう、私と折原さん以外、誰もいなくなった。

食事もしているようには見えないけれど、このまま描き続ける気だろうか。


「ふぅ……」


伊吹さんが言っていた通り、半分くらい出来ているのなら、

早めに出来るものと、無理なものをわけていかないと。

折原さんの仕事の仕方は、まず完成品があって、そこからそれを実現させるため、

データを結び付けていく。


だから、無理なものまで形付けてしまうことがあって、

こんなふうに時間がないときには、それはむしろロスとも言える。


折原さんは、一度息を吐き出すと、タバコを持ち立ち上がる。

軽く肩を動かしながら、事務所を出て行った。

私は、折原さんに気付かれないよう、エレベーターが到着するのを確認する。

エレベーターは屋上ではなく、下に向かっていった。

どこかコンビニでも行って、食べ物でも買ってくるつもりだろうか。

事務所の窓から下を見ると、折原さんが歩く姿が見えた。



どんなデザインなのだろう。



素材の組み合わせは、決めたのだろうか。

デスクの上にある紙をそっと開く……

『はぁ……』というため息に近い音が、私の心の底から出て行った。

背もたれは長めで、少し大きい。これなら男性の大きな背中でも、

しっかり受け止め、さらに安心感を生み出せる。




私が、前回考えたものよりも、もっともっと、個性的で、

もっと、デザインが加わっている。




折原さんの世界が、ここに……




この形と、色を表現するのなら、素材は何を使うだろう。

予算も取れるが、組み合わせは……

私は、おおよその寸法と、デザインの流れをメモに取る。

もし、折原さんが色を深めに考えているのなら、素材は何にするべきか、

逆に、新しい生活を始める若い人に合わせて、明るめの色を選択するのなら、

何を取ればいいのか……


「うん……」


前回も使う予定だった素材で、まずは調べてみることにする。

『アトリエール』と木材の仕入れ表を取り出し、私なりに計算を始めることにした。





折原さんが戻ってきたのは、出て行ってから20分後、

手には、ビニール袋。

お湯を入れたらすぐに食べられるようなカップラーメンが2つ、

それからおにぎりがいくつか入っていた。


「長峰さん」

「はい」


私は計算用紙を別の紙で隠す。


「まだ、帰らないのですか」

「はい。やり残していることがあるので」

「へぇ……」


折原さんは、やかんに水を入れそれをコンロにかけた。

カチカチという音がして、やがて火がついた音がする。

折原さんは、カップラーメンのフィルムを取りながら、また何やら図面に描き始めた。

私が用紙を動かしたこと、気付くだろうか。

一応、元通りに戻したつもりだけれど。


特に指摘されることがないので、大丈夫だろう。


「……いいなぁ……それ」


フィルムを取り終えた折原さんと目が合った。


「食べますか」

「いいですか?」


折原さんは頷くと、蓋を開けようとしたカップラーメンを私に向かって差し出した。

私はそれを取ることなく、ビニール袋に残っているカップラーメンを出す。


「味噌より醤油の方が好きです」


同じようにフィルムをはがし、蓋を取る。

中にはすでに粉末のスープと、小さな具材が入っていた。


「折原さん、一人だとこういうものばかり食べているんですか?」


男性の一人暮らし。

ドラマのイメージだと、食事はいつもこんな感じ。


「こればかり食べているわけではないです。でも、冬は温かいので」

「確かに、温かいですけどね」


私はカップラーメンを横に置き、素材表を確認する。

一番このデザインに向いているのは……



やはり……




「……ごめん」




聞こえてきたのは、折原さんの謝罪だった。


「どうして急に謝るの」

「いや、長峰さんの言うとおり、あのデザインは、俺だけのものではなかったなと、
今更だけれど、そう思って」


高梨さんに破り捨てられたデザインの紙。

折原さんは拾うなと言ったけれど、私にはそれが出来なかった。

私なりに精一杯取り組んで、出した答えだったから。


「長峰さんが這うように紙を拾っている姿を見て、申し訳なさと同時に、
どこか腹だたしくて『コンスタン』を飛び出した。
でも、あの形を作り出すまでのことを思えば……」


確かに、破られたことは悔しかったし、悲しくもあった。

でも……


「もういいです。過去を振り返るのは辞めましょう。
折原さん、10日後のプレゼン、出るって宣言してしまったのだから」

「それは、俺の意地ですから。長峰さんは……」


流しの方から、お湯が沸く音がしたため、私はコンロの火を止めた。

2つのカップラーメンに、それぞれお湯を入れていく。


「関係ない……とでも、今度は言うつもり?」


何を言われても平気。

私は譲るつもりなどないのだから。




【47-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材は材木の中にある精油成分により、それぞれ特有の香りを持ち、
ヒノキやヒバは抗菌、クスノキやヒバは殺虫、
ヒノキやスギには、防ダニの効果があると言われています。

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