47 我らの場所 【47-3】

【47-3】

「今、素材表を見て確認しましたが、このデザインのままでは予算がオーバーですよ。
折原さんが、背もたれを大きく頑丈にしたいという気持ちもわかりますが、
そこにこだわりすぎていると、デスクの素材に制限がかかります。
椅子の堅さもあるし、前回のままでは、少しバランスが悪いですし……」


データを調べたり、何か以前の仕事で参考になったことを思い出すこと、

小さな仕事を積み重ねることは、昔から得意だった。


「以前、喫茶店の高い椅子を注文されて作ったことがありましたよね。
あの素材はどうですか? 加工もある程度しやすいですし、それに……」

「ありがとう。でも、いいよ……無理に関わらなくて。
君を巻き込むようになるのは嫌だから。これは俺が仕掛けたことで、
無謀でもなんでも、最後までやらないとならないことで」


折原さんは、高梨さんのやり方に、お父さんを思い出すと言っていた。

無理かもしれなくても、勝てる見込みがなくても、無条件に負けたという状態を、

認めたくないのだろう。


「お湯を入れたし、あっという間に3分経ちそうなので、あれこれ聞かずに、
ひとつだけ聞きます。折原さんが、以前、私に言ってくれたように……」


思い通りにならなくて、我慢ばかりしていた頃。

あなたの言葉が、どれほど私を救ってくれただろう。


「本当に、今話しているのは折原さんの気持ち?
私は実力が不足しているから、関わらないでいて欲しいというのなら、関わりません。
どうしても自分ひとりでやり遂げたいというのなら、その邪魔もしません」


本音が聞きたい。

いや、私にはいつも本音を言って欲しい。


「でも、ここで私の気持ちを、言わせてもらえるのなら……」


最初から、ぶつかることが多くても、あなたにだけは本音が言えた。

それはこれからも、続いて欲しい。


「私にだって、出来ることくらいあるんだぞ……と、そう思っている」


データを調べること、カップラーメンよりも、温かくて美味しい食事を作ること、

デザインの実力が不足していても、やれることはある。


「これでも少し、強くなったから」


今でも、自分が一番だなんて、そんな大それた思いは持てないけれど、

少なくとも、以前の私のように、黙っていればいいとは思わない。


「一緒に、もう一度頑張ろうと、そう言ってはくれないの?」




一人より、二人がいいと、思って欲しい。




背中を向けていた折原さんが、私の方を向く。


「そういえば俺、そんなふうに言ったね。本音で話せって」

「うん……」

「そうだった」


隠していないのか、無理をしていないのかと、あなたは何度も聞いてきた。

この人なら、何を言っても受け止めてくれると思えたから、

だから私は、一歩だけ前に出ることが出来た。


「高梨に言いたいことを言える心臓を、持っているはずなのに……。
あなたの表情ひとつに、ものすごく不安になる自分がいるんだ」

「私の?」

「そう……あなたに対しては、いつも不安になる」


不安……


「どうして?」


なぜだろう。私は折原さんをいつも不安にさせるだろうか。


「どうしてかな……」


次の呼吸をするときには、優しい腕が私の体を包んでくれた。

『WOLF メンソール』の香り。



私の好きな、折原さんの香り……



「こんなハンデのある勝負に挑もうなんて、呆れてしまうところもあるけれど、
でも……」


でも……


「それ以上に、寄り添っていたい気持ちの方が、何倍も何倍もあるのに」


あなたが私を好きだと言ってくれている以上に、

私はあなたが好きだと、そう思えるのに……


「手伝っても、いいでしょ?」


折原さんからきちんと答えを聞くはずなのに、答えは言葉にならなくて……



重ねた唇でわかるだろうと……

そう無言で告げてくる折原さんは、ずるいけれど……



でも……



これが一番、伝わることも、わかっているから。

黙って無言の返事を、受け続ける。



ケンカをしても、傷つけあっても、互いの傷がどういうものなのか、

わかるから……





「美味しい」

「うん……」

隣同士に座り、二人で音をさせながらカップラーメンを食べる。

私が半分食べている間に、折原さんは終わってしまった。


「そうか、このデザインのままじゃ無理か」

「いくら高予算がOKだといっても、桁が代わると……」

「うーん……」


1点ものなら、色々と出来るだろう。

でも、今回はあくまでもコラボ商品。うちの思いだけが全面に出るものを、

求められることはないだろう。



折原さんが描いたデザインをPCに載せていく。

それにしても、ひとつずつの線、面、本当に魅力的だと思う。

この人の才能に、私は一生、嫉妬しながら生きていくのだろうか。

それもまた、楽しいと思えるけれど……



互いに集中していると、時間はあっという間に11時を回っていた。




【47-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材は材木の中にある精油成分により、それぞれ特有の香りを持ち、
ヒノキやヒバは抗菌、クスノキやヒバは殺虫、
ヒノキやスギには、防ダニの効果があると言われています。

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