47 我らの場所 【47-5】

【47-5】
私は、この男性が仕事の依頼に見えたと、説明する。


「仕事の依頼ですか」

「はい」


伊吹さんは自分の名刺を取り出し、挨拶をした。男性は名刺を受け取り、

メガネをずらしながら、伊吹さんの顔を確認する。


「はぁ、わざわざご丁寧にお名刺まで、ありがとうございます。
私は、大島吉太郎と申します。実はですね……」


吉田さんは、以前利用したお店で、素敵な家具に出会ったという話をし、

ここへ来たのだと説明してくれた。

その店とは、小菅さんが担当していた『カルチャー教室』だということがわかる。


「カルチャー教室ですか」

「はい。家内と、家の近くに出来た教室で、書道を習うことにしまして。
しかし、足があまりよくないので、正座がきつくてね。
それでどうしようかと思っていたら、その机は、畳の上にあるのに、
グンと伸びたのですよ」

「伸びた」

「はい。正座が辛いと、講師の方にお話したら、
後ろから使っていないテーブルが出てきまして、
こう、背もたれも小さく出来て、座ることが出来たのですよ。
さらに机がこう……グンと……」

「あぁ、はい」


既製品には、ある程度基準がある。

それは大量生産をするためには仕方のないことだけれど、

それに外れた人たちにとっては、正直、使いにくいだろう。


「机を、椅子代わりに出来たと言うことですね」


「そうそう、あのカルチャー教室の机は、正座が苦手な方のために、
椅子のように使うことが出来るのです。さらに机も伸ばしてもらえて助かりました」


小菅さんは、『カルチャー教室』を運営する団体に、

注文された通りのものを作りながらも、使い勝手がいいような細工を、

あちこちにしていたと言う。


「ですので、こういう気持ちを込めるものを作れる方にお話して、
せっかくならば、自分が使いやすいものをと、そう思ったものですから」


吉田さんは、事務所の中を軽く見回し、小菅さんを探しているように見えた。


「あの机を作った人は、どちらにいらっしゃいますか」

「申し訳ありません、その家具を担当したのは、うちの小菅なのですが、
今日は休みを取っております」

「お休みですか」

「はい」


吉田さんは、ここまで来たのに残念だと言い、

小菅さんが来るのはいつなのかと尋ねて来た。

伊吹さんは、小菅さんが妊婦となり、この年末で退社する話をする。


「退社……」

「はい。11月の半ば過ぎにサイズを測り始めて、それで制作に入っていくとなると、
小菅が担当するには、少し日程が厳しいかと」

「うーん……」


伊吹さんは、うちには他にもデザイナーがいるので、

こちらに任せてもらえないかと吉田さんに提案する。


「あぁ……そうですねぇ」


嫌だとは言わないものの、気持ちはあまり乗り気ではなさそうで、

伊吹さんが連絡先を聞きだすと、とりあえず吉田さんは事務所を出た。





時計は10時。

今日も折原さんと、『FREE』に提出するアイデアをまとめていく作業が続く。

伊吹さんは、今朝仕事を依頼しに来た、吉田さんの話を社長にしているのだろう。

担当は、伊吹さんだろうか、それとも道場さんだろうか……


「長峰さん」

「はい」

「早く立体図仕上げてくれませんか。
さっきから同じ場所で、ポイントが光り続けていますけど」

「エ……あ、はい」


そうだった。私にはやらなければならないことがある。

こんなふうに気持ちがふわふわしていたら、また失敗することになってしまう。

でも……



女性ならではの細かい細工、小菅さん以上に出来る人がいるだろうか。

あの男性は、金額をかけてもいいから、納得するものが欲しいだろう。

小菅さんがもういないのならともかく、まだ事務所にもいるのだし……


「俺は、日程的にきつくても、小菅さんに振るべき仕事だと思いますけどね」



折原さん……



「そう思います? はい、私もそう思います。そう思いますよね、折原さん」


そう、おそらく全ては出来ないかもしれない。

それでも、小菅さんにとっては、気持ちがあたたかくなるものになるはず。

あの失敗が最後の仕事にならないのも、プラスではないだろうか。


「折原さん」

「はい」

「その意見、今、社長と伊吹さんに言ってきてください」

「は? 長峰さんが言えばいいでしょう」

「私ですか……でも……」


私が説明しようとすると、伊吹さんや道場さんでは出来ないからだと、

思わせてしまう気がする。説明のしようによっては、プライドを傷つけるというか……。

でも、社長と伊吹さんが、決めてしまう前に、小菅さんのこと……


「では社長、そういうことで」

「あぁ……」



話し合い、終わってしまった。



伊吹さんは社長の前から席に戻り、何やらファイルを広げ始める。

吉田さんの依頼、道場さんに話をしないところを見ると、

伊吹さんがやるつもりなのだろうか。




【47-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材は材木の中にある精油成分により、それぞれ特有の香りを持ち、
ヒノキやヒバは抗菌、クスノキやヒバは殺虫、
ヒノキやスギには、防ダニの効果があると言われています。

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