48 縁ある人々 【48-1】

48 縁ある人々

【48-1】
合宿生活7日目。

食事は私が作ったが、今日の片付けは、折原さんが担当してくれる。

スポンジを右手に持ち、折原さんはお皿の上をクルクルと動かし、汚れを取っていく。


「小菅さんが作ったカルチャー教室のあの机は、本当に優れているものですよ。
今から8年前なんて、うちは名前も知られていない会社だったでしょうし、
たとえいい作品を作っても、推薦してくれるような団体もないですから、
賞レースに出るのは難しかったでしょうけど……」

「推薦?」


私は横に立ち、折原さんが洗ったお皿を、布巾で拭いていく。

同じ形のものを数枚重ね、それがひとまとまりになると、

食器棚の決まった場所に戻した。


「そう、業界関係者の推薦」

「賞を取るのに?」

「いや、参加するために」

「参加するために、推薦ですか」


折原さんは、小さく何度か頷いている。


「本の賞、それに音楽の賞、まぁどの業界でもそうですけれど、
本当に世の中の全てを見て、探し出してくるのは不可能です。
だから、業界紙や取引企業などの推薦があって、候補が選ばれる。
つまり、付き合いの多い会社をたくさん持つ大手企業が、
賞レースには圧倒的に有利ということ」

「そうですか」

「そうですよ。完全な平等など、こういう場面には存在しませんからね」


本当にそうなのだろうか。会社の名前が大きいから有利だと言われしまうと、

権威のある賞が、どこかくすんで見えてくる。

私は折原さんに説明されたことを確かめようと、PCの前に戻り、

『インテリアラウンド』の賞を獲得した人の名前を、軽く調べてみた。

確かに『林田家具』を始めとした、業界で名前の知られた企業で働いている人が多い。


「あ……本当」


何年連続というところもあるなんて……


「だからといって、俺が『インテリアラウンド』を始めとした賞を、
認めないと言うわけではないですよ。候補になることだって、偶然ではないから。
これなら売れるだろうとか、斬新なデザインだとか、
きちんと見るべき人が見ていますしね」


確かに、大手に入っていれば、誰でも出られるわけではない。

デザイナーという仕事についても、一生縁がない人もいる。


「でも、俺は、そういった表彰よりも、自分が仕上げた仕事が、人の心を掴んで、
そこから広がっていった今回の評価の方が、デザイナーとしては、
本当の満足感だと思うだけです」


折原さんは、流しの水を止め、私がつけてあげたエプロンを外す。


「満足感……ですか」

「はい」


吉田さんの心に、長い間ずっと残っていた小菅さんの作品。


「そうですね……確かに」


8年も前にした仕事が、新しい仕事を生み出すなんて。

『あなたにお願いしたい』というお客様の言葉があれば、

これ以上の評価はいらないかもしれない。


「それにしても、よかった。吉田さんの仕事が入って、小菅さんが笑ってくれて」

「はい」


私は、お茶の用意をしながら、本当によかったと何度も頷いた。





大きなハンデとなる10日間の戦いを終え、

そして……いよいよ、『FREE』のプレゼン前日になった。

完成させたデザイン画と説明を、伊吹さんと社長に見せる。


折原さんの強引さに、一度は反発した仕事だけれど、

なんとか気持ちを前に向けて、ここまでたどり着いた。

どうだろう。私たちだけの思い込みになっていないだろうか。


「いいと思うな、俺は。前のものよりも、もっと」

「そうだな。いい意味で開き直れている気がする」


伊吹さんはそういうと、私たちの顔を交互に見る。


「伊吹さん、俺、開き直ってはいませんよ」

「あはは……わかっているよ。お前が大芝居をうって、参加を決めたことだ。
気持ちも気合も入っているだろう。うん……自信を持って行け」


伊吹さんは、素材は何にしたのか、それがどれくらいの頻度なのか、

わかりやすく説明をするようにと、さらにアドバイスをくれる。


「ありがとうございます。評価するのは向こうですが、
自分たちが今出来ることは、全て入れたつもりです」


そう、全てを出し切ったという、気持ちだけは間違いなくある。

低価格の方は、学生を意識した飽きのこないデザインにまとめ、

予算をかけられる方は、社会人を意識した落ち着いた色合いと素材。

しかし、その中には、折原さんのデザインが、惜しみなく表現されている。



他では買えない家具。



その貴重さは、間違いなくアピールポイントになるだろう。


「では、明日はそのまま、出版社へ向かいます」

「うん、頼むな」

「はい」


社長の『頼む』の一言に、私と折原さんは揃って頷いた。

折原さんは茶色の封筒に、10日間の全てを入れ、それをしっかりと閉じた。




【48-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木の年輪は、気温に左右されることが多く、日本より寒い地域だと、
成長が少しずつになるため、『年輪』が細かく入ります。
逆に暖かいと、成長が均一なので、『年輪』がわかりにくくなります。

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