48 縁ある人々 【48-2】

【48-2】
扉を開けて、電気をつけると、まずは荷物をおろす。

デザインを描きあげるまで、そう、昨日まで、この部屋で折原さんと合宿生活だったが、

それが解消され一人に戻ると、なぜか部屋の中がとても広く思えた。


いつも使ってもらっていた食器やグラスが、流しの横に揃っていて、

冷蔵庫を開けると、飲みきれなかったお酒や水のペットボトルが、

大きな態度で陣取っている。


今日は久しぶりに一人だし、たまには楽をしようと、

売られていた惣菜を買い込んできたのに、パックからお皿に移しても、

あまり美味しそうに思えなくて。

食事を始めても、予定より半分くらいの量しか口に入らない。


「はぁ……」


今までも、ここで食事をし、一緒に朝まで過ごすことは何度もあった。

だから、その長さが違っただけで、大きく変わったことは何もないはずなのに。


一人でいるのは元々嫌いではないし、自由なことはありがたいことだけれど、

それよりも……



『おかわり』

『これ、美味い』

『片付けようか?』



誰かに頼りにされていること、必要とされていることを痛感した心が、

また、あの時間を呼び戻したいと思ってしまう。

『孤独な目』を持ち続けてきた人に、

寄り添って生きることが素敵なことだと、感じて欲しくて……


少し狭いからゆっくり寝られないと、互いに文句を言った夜。

ぬくもりのない布団の中に、黙って一人で滑り込むと、

冬は、やはり寒くて、震えるような気温しかないのだということに、気付かされる。

体は大きく伸ばせるのに、どこか寝づらく、何度も寝返りをうちながら、

自分の落ち着ける姿勢を探すけれど、少し動かせば、また冷たい箇所があって、

なかなか眠りにつけなくて……



少しだけ……

寂しさの方が勝ってしまって……



私はベッドから抜け出すと、折原さんが残したチューハイの缶を開けた。



『これ、安いけれど結構いけますよ』



そんなことでも、彼を感じられるのが嬉しくて、部屋の暖房をつけると、

壁に寄りかかりながら、一口ずつ飲み続けた。





「おはようございます」

「おはようございます」


今日はいよいよ、プレゼンの日。

事務所には行かず、直接『FREE』が作られている出版社へ出向く。


「『合宿生活』ありがとうございました。久しぶりに羽を伸ばして寝られました?」

「あぁ、はい。ゆっくりと……」


突然そう聞かれ、実はなかなか眠れなかったというのが、どこか癪で、

つい、そう言ってしまった。お酒の力を借りて寝たのが、事実なのに。


「そうか……」


折原さんはどうだったのだろう。

俺もそうでしたと言われたら……



少し……寂しい。



「まぁ、普通はそうですね。俺がおかしいのか」

「おかしい?」


何がおかしいのだろう。


「何がおかしいのですか」

「いや、自分でも笑ってしまうんですけど」

「はい」

「数日のことだったのに、俺は長峰さんが隣にいることに慣れてしまって、
昨日は、なかなか眠れなくて……」



ドキン……と体全体に脈打つ音が駆け巡る。



「今まで、長い間そうしていたのに、なんだろう、食事をするのも一人なんだって、
急に思えて」


そう、いつものテーブルがとても大きく見えたり、

何かを言うと、返してくれる声がある心地よさだったり……



言わなくちゃ……私も。



「笑えるな、俺、外国にいた頃から、ずっと何年も一人だったのに」



素直に……言わなくちゃ……



「私も……」



そう、私も……



「私も……実は……」


そう、『寂しい』という感情が湧き上がったのは、初めてだった。

仕事でも一緒なのだから、こうして次の日には会うのだから、そう思ったけれど。


「折原さんがいないと、なんだか部屋が広くて」


部屋が広くて、暖房をかけているのに、どこか寒くて。


「一人って寂しいものだなと……思ってました」


心の中を、隠さずに告げる。仕事が忙しくても、

折原さんがデザインの紙を広げているのを見ながら、食事を作るのが楽しくて。

『美味しい』という声がすると、明日は何を作ろうかと考えるのが楽しくて。


「笑えますね、本当。こうして職場でも会えるのに」


黙っている折原さん。

よかったと思ってくれているのか、それとも、恥ずかしいと思っているのか。

目的地に向かう足音だけが、コツコツと刻まれていく。

何か言ってくれたほうが、笑ってくれた方が、私は楽なのに。

黙られてしまうと、出した言葉が重くなってしまうようで、恥ずかしくなった。


「今日と明日、プレゼンに参加する企業は、半分ずつだそうです」


黙っていると、その場に空気が溜まっていきそうで、

こうなったら逃げてしまおうと、話を仕事の方へ向けてみる。


「長峰さん」

「はい」

「……一緒に、暮らしませんか」



『一緒に……暮らす』



「嫌かな……」



折原さんと、一緒に……



「いえ……」



一緒にいたい。

そう、いつでも笑い合える距離に……いて欲しい。



「それなら、そうしましょう」

「……はい」



思いがけない合宿生活から、心のままに、私たちは同棲することを決めた。




【48-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木の年輪は、気温に左右されることが多く、日本より寒い地域だと、
成長が少しずつになるため、『年輪』が細かく入ります。
逆に暖かいと、成長が均一なので、『年輪』がわかりにくくなります。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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ももんた

拍手コメントさん、こんばんは
いつもありがとうございます。

ケンカをしたり、わかりあったりしながら、知花と紘生の日々が続いています。
ドキドキしたり、ほっとしたりしながら、最後までおつきあいください。
  • URL
  • 2015/12/17 00:04

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