48 縁ある人々 【48-3】

【48-3】

『FREE』のプレゼン会場。

ライバルのひとつ『コンスタン』のプレゼンは明日。

後から出てくるほうが、有利な気持ちもするが、ここは精一杯やるしかない。


「それでは『DOデザイン』さん、どうぞ」

「はい」


私たちは入り口で頭を下げ、プレゼン会場に足を踏み入れた。





「はぁ……」

「どうだった?」

「とにかく、やるべきことはやりました。クライアントの食いつきもよかったですし、
質問もあれこれありましたけれど、でも、まだ明日の企業があるので、
楽観視は出来ません。返事は来週明けくらいだと」

「そう」


事務所に戻ると、小菅さんがすぐに気にしてくれた。

私は、自分たちには悔いがないことを告げ、コーヒーを入れる。

折原さんも気持ちを解放したいのか、すぐに屋上へタバコを吸いに出かけた。


「それより、小菅さんはどうでした? 吉田さん」

「うん、ご主人にお会いして、今日はお話をたくさん聞いてきたの」

「お話?」

「そう」


奥さんが入院していて話し相手がいないから、

たくさん話したいことがあるのだろうと、小菅さんは笑う。


「話し相手だけですか」

「そうよ、契約書にサインをもらって、はい、さようならじゃなんとなくね。
私も、あれこれ仕事を抱えているわけではないから、お茶をいただいてきたの」

「へぇ……」


聞き上手の小菅さん相手なら、さぞかし吉田さんは楽しく身の上話をしただろう。


「吉田さんの家ね、『杉ノ上』の駅からすぐのマンションなの。
すごいのよ、オーナーさんだから」

「杉ノ上……ですか」

「そうなの。もう築30年近いマンションだけれど、でも手入れはしているから、
外観はそんなに古く感じなかったわ。
5階が吉田さんで、下の4階が息子さんご夫婦と大学生の娘さん。
で……1階は店舗、えっと美容室と個人塾。2階と3階が賃貸だって」


ロッキングチェアを作るために向かったはずなのに、

話は仕事と完全にずれている。


「それがね、息子さんが、来年1月から2年タイに行くらしいの、仕事で。
で、空けているのももったいないから、部屋を貸そうかという話しになってるけど、
2年で戻るから、条件的に難しいかなって……」



2年……



「部屋って、使わないと痛むのよね。空き家は家具にもよくないもの。風が通らないし」


『杉ノ上』。今の路線と変わらない。

しかも、私や折原さんの部屋がある場所よりも、もっと事務所に近い。


「間取りはどれくらいなんですか」

「間取り? えっと、5階とまったく同じだと言っていたから……」


小菅さんは、吉田さんの家を訪れた少し前の時間を呼び戻しながら、

間取りは2LDKだと教えてくれる。


「2LDK」

「そう。リビングでしょ。これが結構広めなのよ、そこに対面式のキッチンでしょ。
そう、あと2つ部屋があるって、吉田さん言っていた」


2LDK。一緒に住みながらも、互いの空間を取ることも出来るかもしれない。


「何、知花ちゃん、誰か紹介できそうな人、いるの?」

「……あ……いえ、あの、すみません。単に興味があって」

「興味? まぁそうよね。『杉ノ上』だものね。私だって一瞬考えたもの。
借りようかしらって……」


小菅さんはそういうと、でも、今の場所のほうが自分の実家に近いからと、

出した意見を消してしまう。


「相場からいったら、結構すると思うけどね」

「ですよね」


そうだった。互いのお給料を考えても、家賃にあまりウエイトをかけられない。

『杉ノ上』の賃貸マンションなど、私たちには無理なはず。


「……2LDKかぁ……」


つい、ポツリとつぶやいてしまった。

目の前には、思い切り何かを探ろうとしている小菅さんの目。


「知花ちゃん、もしかして……」



もしかして……



「折原君と……」

「あーっ!」


私は思い切り声を出し、小菅さんの声を遮った。

遮ったのはいいけれど、その大げさな逃げが、次の言葉を生み出せなくなる。

いや、完全に逃げ道を遮断した。


「絶対に言わないでくださいね。特に……」

「はい、はい。優葉ちゃんには言わないわよ。絶対に」


予算など考えもしなければいい物件だという思いもあり、ついつぶやいてしまった。

さすがに小菅さんは鋭い。

あっという間に『新生活』のことが、ばれてしまった。


「何、いつから住むの?」

「まだ何も決めていないんです。住むところも決めてないので」

「へぇ……」


小菅さんは、まだ何かを言いたそうに、唇だけ軽く動かしてみせる。


「本当に言わないでくださいね」

「言いませんよ、信用して」


小菅さんはそういうと、とりあえず家賃だけ聞いてあげるねと、笑顔を見せた。




【48-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木の年輪は、気温に左右されることが多く、日本より寒い地域だと、
成長が少しずつになるため、『年輪』が細かく入ります。
逆に暖かいと、成長が均一なので、『年輪』がわかりにくくなります。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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