48 縁ある人々 【48-4】

【48-4】

「ん? この値段でいいの?」


その日の仕事が終わり、私は折原さんと食事に向かった。

話題は、つい口を滑らせてしまった部屋のこと。


「小菅さんが、すぐに吉田さんに聞いてくれたの。
それで、吉田さんも『DOデザイン』の社員さんなら、家賃はこれで十分だって」

「ウソみたいないい話だな……って、実はウソだとか?」

「ウソなんかここでつかないです。2年と言う期限付きだけれど……
場所も『杉ノ上』で好条件だし」

「うん」


小菅さんが聞き上手であり、

吉田さんが、本当に『DOデザイン』を頼ってくれていることがわかる話。


「それなら、ここに決めようか。探す手間も……」

「そうなんですけど」

「何?」


そう、話をしなければならないことが、実はひとつ見つかった。

私は、小菅さんが吉田さんとの電話で書いてくれたメモを机に置く。

そのメモを見た、折原さんの表情が、変わった。



『久我不動産』



「吉田さんの賃貸マンション。『久我不動産』が管理しているんです。
実は、吉田さんが『DOデザイン』に仕事を頼みに来たのも、
久我さんが押してくれたこともあったらしくて」


吉田さんの話しによると、いつものように世間話をしに出かけた吉田さんは、

『久我不動産』で、ロッキングチェアのことを話し、そこにいた秀臣さんに、

オリジナル家具を頼むのなら、『DOデザイン』を使ったほうがいいと、

強くアピールされたのだという。


「でも、吉田さんはカルチャー教室って」

「そう。とりあえず久我さんに言われた会社の名前だけは覚えて、家に戻って、
息子さんにうちを調べてもらったらしいの。
そうしたら、以前世話になったカルチャー教室も、
うちの仕事だったことがわかって。それでうちしかないということになったって」


久我さんが、最初に押してくれなかったら、

小菅さんの作品との縁にも、気付かなかったかもしれない。


「秀臣が……」

「うん」


離れてしまった距離は、長い年月を経て、少しずつ近付き、

そしてまた、すぐそばにまでやってきた。


「最初から賃貸として使っている他の部屋とは違うから、
細かい規則とかはないけれど、とりあえず賃貸契約の書類は、
『久我不動産』が作ってくれるらしくて」


私たちが借りるとなると、『久我不動産』に行かなければならない。

折原さんは、難しそうな顔をしたまま、言葉が出なくなる。

物件としては好条件でも、大きな壁が……


「まぁ、他にも探してみましょう。まだ、きっとあるだろうし……」


折原さんがあまり乗り気でないのなら、いくらいい条件でも、それは使えない。

『2LDK』という間取りだけなら、他にもあるだろう。

駅との距離や、事務所との距離を考えなければ、値段的にも見合ったものが、

出てくるはず。


「ね、そうしましょう。えっと、今日は何にしようかな」


折原さんの気持ちを、無理に動かすことはしないと、決めたのだから、

ここは焦るべきではない。


「行きましょう」

「……行く?」

「うん。『久我不動産』へ行きましょう。これほどの好条件物件、
探しても絶対にないですよ。意地で目をそむけていても、何も変わらないし」

「折原さん」

「秀臣が、いつまでも俺に遠慮しているのかと思うと、かわいそうだ」


10年近い時を過ごし、もう一度、笑いあえる関係に、戻りたい。

そう気持ちを動かしてくれたのだと思うと、これがまたひとつの縁なのだと、

そう思えてくる。


「それじゃ、食べますよ」


私は、折原さんが見ていた小菅さん手書きメモの上に、メニューを大きく広げた。




【48-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木の年輪は、気温に左右されることが多く、日本より寒い地域だと、
成長が少しずつになるため、『年輪』が細かく入ります。
逆に暖かいと、成長が均一なので、『年輪』がわかりにくくなります。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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