49 勝負の意味 【49-1】

49 勝負の意味

【49-1】

約束時間から、ほんの2、3分前、私たちが『久我不動産』に到着すると、

そこには……


「……紘生」


久我さんが待っていてくれた。


「うん……」


当然と言えば当然だけれど、ぎこちない再会。

ここは私が……


「こんにちは」

「あ……こんにちは」

「今日は、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ」


確かに重い空気だったけれど、それほど息苦しさはなかった。

この後、少しずつよくなることがわかっている空模様を、見つめるような気分で、

私はしっかりと頭を下げた。





「何にします?」

「えっと、私はこれで」

「じゃぁ、私も」


私は『久我不動産』を離れ、今日のことを知って来てくれた環奈さんと、

先日オープンした『ティアーズ』へ向かった。

少し遅めの時間だったからか、店内は数名の客がいるだけで、

ご自慢の紅茶を入れてもらい、それにあわせたケーキもつけてもらう。


「それにしても、こんな話が出るものなのかと、驚きました」

「そうですよね、私も思いがけない話しに驚きました。
お兄さん、『DOデザイン』のこと、気にしてくれていたのですね」

「そうみたいです。私はいつも一緒にいるわけではないので、
細かくはわかりませんけれど、仕事が不動産業でしょ。
引越しが決まった家族とかと話をする中で、家具を新調したいという話題になると、
『DOデザイン』のことをよく話していたみたいですよ」

「そうだったのですか」

「『エアリアルリゾート』のパンフレットを出して、これは俺の友達が作ったとか、
ほら、長峰さんのジュエリーボックスの記事も、どこで見つけていたのか持ってましたし」

「私の記事も……ですか」

「はい」


秀臣さんは、底なしに優しい人なのだろう。

だから親を裏切れないし、自分がその犠牲になることも、嫌だと思わない。

折原さんのことも、本当は今でもとても大好きで、

こうした時間を求めていたのだということが、あらためてわかる。


「今ごろ、少しは話をしていますかね、二人」

「大丈夫ですよ、兄はこの日を、長い間待っていましたから」

「それは折原さんもです」


私と環奈さんは顔をあわせて、心から嬉しいと笑顔になれた。





環奈さんと紅茶を楽しみ、『久我不動産』に戻ると、

大島さんは上機嫌で店を出たあとだった。小さなテーブルを挟んだ状態で、

久我さんと折原さんが向かい合って座っている。


「戻りました。あれ、お兄ちゃん。大島さんもう帰られたの」

「少し前に。今日は奥さんと出かける約束があるそうで」

「あら……」


ロッキングチェアを作る予定のお二人。

この間のマンション見学でも、とても仲がよさそうだった。


「長峰さん」

「はい」

「大島さん、秀臣と俺が知り合いだって知って、さらに家賃を安くしてくれた」

「エ……本当ですか」

「はい。いや、俺が何かを言ったわけじゃなくて。紘生が……」

「俺? 俺のせい?」

「いや、責任とかじゃなくてさ」


久我さんと折原さんの言葉の投げかけを聞き、私は環奈さんと思わず顔を見合わせた。

折原さんは、遅れてきた大島さんの前で、

自分がどういういきさつでここまで来たのかを語ったという。


「秀臣に、ずいぶん迷惑をかけたんだって話をしたら、大島さん、
一人でよく外国で頑張ったね……なんて、やけに感動してくれて」


大島さんは、今、4階に住んでいる息子さんに、

自分と同じ税理士の道を歩ませようとしたが、息子さんは外国旅行が好きで、

海外を飛びまわれる仕事がしたいと、外資系の企業に勤めたという。


「大島さんも、その時は思い通りにならないことに悩んだけれど、
今となっては、本人が生き生き仕事をしてくれて、よかったと思っているって。
なぁ、紘生が励まされていた」

「あぁ……そうそう。ガンバレ、ガンバレって」



『ガンバレ』



優しい口調の、大島さんからのエール。

折原さんの気持ちに、きっと届いたに違いない。


「で、結果的に俺たちが得をした……と」


折原さんは、契約書を広げて私に見せてくれた。

予想よりも本当にお安い賃料になっていたことに、あらためてビックリしてしまう。


「これ、本当にいいのですか。今の家賃とあまり変わらないですけど」

「俺も何度も聞きなおしたけれど、
2年という期限付きだからそれでいいって譲らないんだよ、大島さん」


マンションの下にある駐車場をプラスで借りたとしても、

今、互いに支払っている家賃を足して払えば、お釣りが結構来てしまう。


「大丈夫ですか、久我さん、こういう約束で」

「平気ですよ。家賃はオーナーが決めることです。相場は相場。
ただ、他の部屋の方には、オープンにしないほうが」

「はい、それはもう」


色々な流れが、いい方向に重なり続け、話しはあっという間にまとまった。

息子さんの引越しは来年の3月末になり、実際に入居できるのは4月以降だけれど、

私たちもまだ準備は何もしていないため、焦ることもなく、

そのおかげで、思い通りに近い部屋を、借りることが出来た。




【49-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【大島吉太郎】
賃貸マンションを持つ、オーナー。
小菅の手がけた仕事を評価し、別の仕事を『DOデザイン』に持ってくる。
実は、『久我不動産』の親子と親しい。

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