49 勝負の意味 【49-3】

【49-3】

そして……『延期』となっていた『FREE』のコラボ。

その連絡は、次の日、突然にかかってきた。

なぜ、予定よりも時間がかかったのか、担当者から説明を受けた社長は、

受話器を握りながら、そうですかと何度か頷いた。


「どうですかね」

「うん……」


以前、『エアリアルリゾート』の仕事が決まった時には、社長は受話器を持たない手で、

小さな丸を作ってくれたが、今日は何も動きがない。



やはり……ダメだったのだろう。



「それでは、失礼します」


社長の手から、受話器が離れ……


「社長」


色々言うまいと思っていた伊吹さんや、道場さんの目も社長に向かう。


「うちと『コンスタン』が、それぞれ担当をするそうだ」


うちと『コンスタン』が担当……

それはどういうことだろう。まさか、互いのいいところだけを取って、

勝手に新しいデザインを作りだそうと言うのだろうか。


「社長、意味がわからないです」

「それぞれ担当とはどういうことですか」

「あぁ、うん」


社長は、これから『FREE』の担当者がFAXを流してくると言いながら、

立ち上がった。確かに数秒後、音がし始め、紙が流れてくる。


「最初は『コンスタン』の案を両方使おうかと思ったそうだ。
発表では1社とのコラボと、そう決めていたこともあるし」


確かに、マスコミ向けに発表されたのは、1社とのコラボ。


「しかし、編集部員たちから、どうしてもうちのデザインを採用したいという、
意見が出たそうで。色々と協議を重ねた結果、
低価格は『コンスタン』、高価格の方は『DOデザイン』でと、まとまったらしい」

「おぉ……」


100%勝利したわけではないが、逆に100%負けたわけでもない結果。

それでも、喜ぶべきなのか、どうなのか、よくわからない。


「どうした長峰、折原。ボーッとして。お前たちはよくやったぞ。
あのまま辞退していたら、うちには何も入ってこなかった仕事だ。
半分でももぎ取れたんだ、よくやった」


優葉ちゃんは、一度拍手をしようとしたが、周りが静かなことに気付き、

その手を下ろしてしまう。

確かに、何もなかったことを思えば、健闘したと言えるだろうけれど……



拍手の音が聞こえ、優葉ちゃんを見たけれど、その手ではなく……



「どうしたのよ二人とも、社長の言うとおりでしょう。
本当によくやったじゃない」


小菅さん……


「間違いなく、勝ち取れたのだから、ねぇ……喜ぼうよ」

「そうですよ、そうそう」


小菅さんの拍手に、優葉ちゃんが拍手を重ね、道場さんや伊吹さんもあとに続く。


「うーん……取れなかったか」


折原さんはそうつぶやくと、悔しそうな顔をした。

伊吹さんは出てきたFAXの紙を取ると、それを丸めて折原さんの頭を軽く叩く。


「お前……素直じゃないなぁ……」


伊吹さんの言葉に、初めて折原さんが笑顔を見せる。

私も、その表情が穏やかだったことで、やっと気持ちが落ち着いた。



『コンスタン』と『DOデザイン』

高梨さんは、この結果を正直、どう見ているだろう。

しかも、最初選ばれたのは『コンスタン』だったのに、現場の人たちから声が上がり、

私たちの作品が、滑り込んだ。


圧力も、計算も何もなく、ただ、素材と企画に向かい合った結果。

その何もないものは、コンクリートブロックに囲まれた場所で仕事をする、

あの彼の目には、どう映ったのだろう。



『FREE』から正式契約の知らせが届き、社長が契約に向かったのは、

それから1週間後のことだった。





カレンダーは12月に突入した。

用事があっても、外には出たくないくらい、風は冷たく、気温も低い。

それぞれの会社が契約を終えて、

初めて互いに作ったデザインの全てが公表された。


私は午前中、『NORITA』との仕事があったので、今、事務所に戻り、

『コンスタン』のデザインを初めて見たが、午前中にすでに見た折原さんは、

どういうイメージを持っただろう。


ただ、ありきたりなものには収まらず、そこには素材を無駄なく使う、

エコの姿勢がしっかりと加わっている。

テレビドラマの時に見た『コンスタン』の家具や、『ティアーズ』の家具とも、

全く違う。



正直、驚きのほうが強かった。



「高梨さんの、本領発揮という感じですかね」

「ん? うん……」


書類を横から見た道場さんは、そうつぶやくと、打ち合わせに出発する。

私は、デザイン画を1枚ずつめくり、椅子、テーブル、本棚と、

企画されたデザインの全てを見た。




【49-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【大島吉太郎】
賃貸マンションを持つ、オーナー。
小菅の手がけた仕事を評価し、別の仕事を『DOデザイン』に持ってくる。
実は、『久我不動産』の親子と親しい。

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