49 勝負の意味 【49-4】

【49-4】
今日は朝から寒かったので、食事は鍋物にした。

野菜と肉を中に入れて、ある程度まで仕上げていく。

明日は、いよいよ『FREE』の編集部で、私たちの打ち合わせ。

『コンスタン』のメンバーとも、顔を合わせる事になるだろう。

ある程度火が通ったことを確認し、蓋を閉める。

吹きこぼれてはいけないと、火を小さくした。


折原さんは、小さなコタツに入って、送られて来たデザイン画をじっと見続けている。

明日、高梨さんと会って、問題なく挨拶が出来るだろうか。


「カセットコンロ、入ってるよね」

「……うん」


動きますよと宣言をして、鍋つかみを使い、鍋をテーブルに移動させる。

蓋を開けると、暖かそうな湯気が部屋の中にふわりと広がった。


「美味そう」


折原さんは、デザイン画をコタツの下に置き、右手で箸を取る。

私はそのデザイン画をもう一度見直した。

私たちがデザインしたものも、決して劣っていたとは思わない。

でも、ひとつだけ言える事は、高梨さんという人が、

決して経営者という面だけではないということ。


「こっちのデザインに関しては、今回は完敗でした」

「完敗? そうですか?」

「低予算で作るものの方は、ありきたりだという概念はなくて、
しっかりとオリジナリティーを出している。でも、消費者が納得するような、
エコ意識が入ることで、『この価格以上』のイメージを持ってもらえるでしょう」


分析された話を聞きながら、私もその通りだと頷いた。

私は話しベタなので、折原さんのように上手に説明できないが、

思っていたことは、全て一致する。


「道場さんが言ってました。高梨さんの本領発揮だって」

「ほぉ……」

「折原さんが『鬼退治』に出かけたことで、高梨さんのデザイナーとしての意識が、
もう一度目覚めたのかもしれないですね」


経営者としてではなく、物を作り出す立場の人間として、

もう一度、素材と、向き合うこと。


「どうかな」


折原さんは、そういうと少し嬉しそうに口元をゆるめた。





『FREE』へ向かう朝は、久しぶりの冷たい雨になった。

もう少し気温が下がれば、雪に変わるかもしれない。

駅からの道も濡れていて、タイルになっている歩道は、気を抜くと滑りそうだった。

ここへ来るのは、プレゼンの日以来。


「すみません、『DOデザイン』です。『FREE』の編集部へお願いできますか」

「はい、少々お待ちください」


正面を入ってすぐの受付で、訪問用の名札をもらい、

折原さんと揃って、エレベーター前に立っていると、

以前、『コンスタン』で見かけた無愛想なデザイナーさんが、横に立った。

そういえば、あの日、『FREE』と書いてあった書類を持っていたのは彼。

あのデザインも、この人が手がけたと言うことだろうか。


「こんにちは、先日はどうも……」


おそらく覚えていないだろうと思ったが、こちらとしては無視するのもと思い、

とりあえず私から声をかけた。男性は、一度こちらを見た後、

表情をまったく変えずに、一度だけ頭を下げてくれる。


今の動作からすると、多少は記憶にあるのだろうか。

3から2、表示がひとつずつ1階に近付いてくる。


「あ!」


突然、男性が大きな声をあげ、私は思わず隣にいる折原さんの腕をつかんだ。

その声の主は、今、とりあえずの挨拶をしたデザイナーさんで。

何かを言おうとしているのか、口が開いたままになっている。


「あなたたち、うちへ来た人たちですよね。『DOデザイン』の」

「……あ、はい」


今、気付いたのだろうか。

だとしたら、先ほどの会釈はいったい。


「あのデザイン。いやぁ……よかったです。うちのデザイナー連中の間でも、
すぐにデータが回りましたから。繊細なラインと、長く愛用されるための工夫。
僕はあの椅子の背もたれから脚の部分に向けた動き……ですか?」


ネジを巻きすぎたブリキ人形のように、いきなり言葉が飛び出し始めた。

どうも、私たちが出したデザインに対する感想を、語ってくれているようだけれど、

エレベーターが到着し、人が降り、さらに乗り込む段階になっても、

彼の話しは終わらないまま続く。

あの時の無愛想さからすると、信じられないくらい口が動いている。


「それと……」

「あの……」

「はい」

「高梨さんは、今日、お見えになりますか」


男性の話しを止めるつもりなのか、それとも単純に聞きたかったからだろうか、

折原さんは、高梨さんがここへ来るのか問いかけた。

男性は、すでに先に着いているはずだと、答えてくれる。

エレベーターは目指した3階に着こうと、スピードを落とし、

男性は、初めてエレバベーター内の静けさに気付く。


「すみません、俺、一人で話しをして……」

「いえ……」

「いや……本当に、感動してしまったので」


男性は、そう言いながら会釈をしてくれ、素早く3階で降りた。

一緒の場所に行くはずなのに、どんどん早歩きで進んでいく。

エレベーターの中より、今の方がよっぽど話しやすい気がするけれど、

人には自分の思うタイミングがあるらしい。


「……変わり者だな、あいつ」

「折原さん……聞こえます」

「いいよ、聞こえても。でも、あいつがあのデザインに携わったのなら、
実力は結構あるってことだ」


そう、私もそう思った。

それに、無愛想に見えたけれど、私たちと同じようにデザインに対する情熱は、

形が違うだけで、きちんと持っている人だということもわかる。


「関わり方は、人それぞれですから」

「……ほぉ、語りますね」


折原さんと笑いながら進んでいくと、

入り口のそばで携帯を見ている高梨さんが見えた。




【49-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【大島吉太郎】
賃貸マンションを持つ、オーナー。
小菅の手がけた仕事を評価し、別の仕事を『DOデザイン』に持ってくる。
実は、『久我不動産』の親子と親しい。

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