49 勝負の意味 【49-5】

【49-5】

「あれ、高梨さんだよね」

「……だと」


折原さんは、先日言い合いをしたことなど、

もう過去の話しだと割り切っているのだろうか。

携帯を見ている高梨さんに、躊躇なく声をかける。

高梨さんは顔を上げ、軽く会釈をしてくれた。


「先日は、失礼しました」


折原さんはそういうと、少し深めに頭を下げる。

私も、それにあわせて、頭を下げた。


「『コンスタン』さんのデザイン、しっかりと見せていただきました。
俺たちが気付けなかった部分にも、しっかりと案が入っていて……本当に、
素晴らしかったです」



折原さん……



高梨さんは、折原さんが謝罪をしているのだとわかり、

構えた表情を、少しずつ緩めていく。


「いや……」

「他人のデザインなのに、見ながらわくわくしている自分がいて、妙な気分でした。
また、勝負してください」



勝負……



同じ業界で仕事をすれば、こうして戦うこともあるだろう。

それでも、相手のよさを評価し、それを認めていくことも必要なはず。


「いや、こちらこそ、折原さん、あなたの作戦にまんまと嵌ってしまいました。
『DOデザイン』さんに実力があるからこそ、避けたいと思ったことは事実です。
両方取るはずだった仕事、私のミスで片方にしてしまった」


高梨さんはそういうと、視線を私の方へ向けた。

顔を合わせているのもなんなので、とりあえず下を向く。


「『DOデザイン』は、これからもっと伸びるのでしょうね。
叩き潰して、胸を張って報告するつもりでしたが……」



報告……



「私としては、消えて欲しい事務所だけれど、
業界のためにはしっかりと価値のある企業……いや、デザイナーだと、
二人のことを、評価せざるを得なくなりました」


高梨さんはそういうと、用事でもあるのだろうか、

私たちの横を通り過ぎようとする。


『報告』

誰に、報告をするということだろう。


「高梨さん」


折原さんの呼び止めに、高梨さんが歩みを止めた。


「それなら、折原紘生という男は、どんな環境になっても、
自分の生きるべき場所を探して、踏ん張っていくしぶとい男だと……
そう付け足してください」

「あ……」


『報告』するのはきっと、折原さんのお父さんだろう。

高梨さんは、折原さんの言葉を聞くと、苦笑したが、

そのまま何も言わずに廊下を進んでいく。

しばらく、その背中を見送っていると、曲がり角に消えた。


「折原さん……」

「なんですか。俺が謝るなんて驚きましたか?」

「エ……」

「またここで、ケンカでもふっかけると思いましたか?」

「ケンカをするとは思いませんでしたけれど……」


謝るというのは、簡単そうで難しい。

大人になればなるほど、そう思う。


「俺はわがまま放題のガキじゃないですよ。認めるものは認め、
否定することは否定する。ただ、それだけです」


折原さんはそういうと、会場の中に入っていく。



『報告』



折原さんのお父さんは、この成果を評価してくれるだろうか。

私は、高梨さんが消えた曲がり角を見ながら、そう考える。



『踏ん張っていくしぶとい男だと……』



私は、折原さんより少し遅れて中に入り、

これから仕事をすることになるメンバーに頭を下げた。




【49-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【大島吉太郎】
賃貸マンションを持つ、オーナー。
小菅の手がけた仕事を評価し、別の仕事を『DOデザイン』に持ってくる。
実は、『久我不動産』の親子と親しい。

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