50 思いのままに 【50-2】

【50-2】

ニュース番組のアナウンサーが、レポーターにおおよその人数で結構ですからと、

負傷者の数を聞きだそうとする。


『そうですね……救急車の数からして、おそらく5名くらいはいると……』


5名。


もしかしたら……折原さんがここに巻き込まれていないだろうか。

いや、巻き込まれたからきっと、ここへ来られないのだろう。

そうでなければ、これだけ遅い時間になるのもおかしいし、

連絡が取れないのは……


「ウソ……」


私は携帯を取り出し、『連絡ください』とだけ打ったメールを何度も送る。

ニュースは別の話題に切り替わったため、テレビのチャンネルをあちこち動かし、

その話題を引き続き語っているところを探した。



『負傷者は10名だという情報が、こちらに入ってきまして……』



10名……一人の男が暴れただけで、それだけの人が傷つくだろうか。

でも、予想外の出来事が起こると、すぐに対応など出来ないだろう。

折原さん、私がお願いしたケーキを持っていて、それで……

逃げられなかったのかも知れない。


返事が来るまで、メールをとにかく送り続けようと思っていたら、

いきなりインターフォンが鳴った。


「おーい……開けて」


折原さん。

私は飛び上がってすぐに扉を開ける。

そこには両手がふさがった状態の折原さんが、両肩を雨に濡らして立っていた。


「いやぁ、参った。ものすごい人で、予約をしていなかったから、並ばされてさ。
お酒も買ったし、雨は降り出すし……携帯メールなりっぱなしで」



……よかった



「もう! 何しているのよ!」

「何って……ケーキでしょう」


私は両手がふさがったままの折原さんに抱きつき、間違いなくここにいるのだと、

安心するまで手を離せなくなる。


「どうした……」


折原さんは、私を振り払うことも出来ず、ただ玄関に立ち続けた。





「刃物を持った男? 沼倉で……」

「そう、もう、テレビつけてビックリしちゃったの。折原さんと連絡取れないし、
知っている駅でこんなことが起こるし」


私は、携帯がつながらないことがどれだけ不安だったかと、懸命に訴えた。


「ごめん、ごめん。俺も外出していたから、世の中の動きがわからなかった。
打ち合わせが長くなってしまって、で、ケーキ屋に行ったら、行列だし。
携帯、マナーモードのままでさ」

「連絡くれたらよかったの。遅くなるとか、なんとか……」

「……申し訳ない。つい」


姿を見られれば、なんでも言える。

私は怒っていたこと、心配したこと、料理を温めながら、

もう、言葉が全て口から出て行くくらい、言い続ける。


「はい……」


折原さんは、それをずっと聞き続けて……

目を閉じて大きく頷いたり、時々考え込むように下を向いたり、

それはあまりにも無抵抗な状態で……



いつもはあれだけ、自分の意見を押してくるのに……



今日は、言われっぱなし。



そう、完全なるサンドバック状態。



「クスッ……」



なんだかおかしくなってきた。

私って、こんなに強かったっけ。

そう、落ち着いて考えれば、お店がどこにあるのかも聞いていたのだから、

慌てなければ、折原さんが巻き込まれていないことくらい、わかったはずなのに。

勝手に怒って、勝手に心配して……



一方的に怒りまくって。



「長峰さん」

「はい」

「……お怒りは、冷めましたでしょうか」


本当……冷静にならないといけないのは、私の方。


「はい」

「それなら、よかったです」


この日のために頑張った料理。美味しい時間を逃してしまってはもったいない。


「あぁ、文句をたくさん言って、話し疲れました。食べましょう」

「はい」


クリスマスだかといって、特に豪勢にしたわけではないけれど、

美味しそうに食べてくれる人がそばにいて、

苦労してまで買ったケーキの話がそこにあって、

私が好きだと言ったお酒が、テーブルにあるだけで、

そこからは楽しい『クリスマス』を過ごすことが出来た。


外は、みぞれ混じりの雨だったけれど、私はぬくもりの中で、

優しい夢を見続けることが出来た。




【50-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
引っ越しを機に買い換える家電や家具。1位は照明、2位がテーブル。
理由は広さが変わるからというのが、一番多い理由だそうです。
『SUUMO引っ越し見積もり調べ』

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