50 思いのままに 【50-5】

【50-5】
「さてみなさん、新年があけました、おめでとう」

「おめでとうございます」


『DOデザイン』の仕事始め。いつもの社長の挨拶からスタートした。

さっそく、それぞれが仕事に動き出し、慌しく時間が流れていく。

伊吹さんは、社長と次に動く仕事の話を細かく詰めているようだし、

道場さんは、小菅さんから受け継いだ、ロッキングチェアの仕事で、工場に連絡を取る。



『知花ちゃん……』



小菅さん……

今まで、隣で笑ってくれていた先輩は、今日からこの場所にいない。

考えると、つい、寂しくなってしまうけれど。


「さて、頑張らないと」


小菅さんに、『知花ちゃん、よく頑張っている』と言ってもらえるように、

作り上げたものを、認めてもらえるように、私は今日も、デザイン画を広げ、

ひとつずつ前に進むため、ペンを動かした。





「ねぇ、これ運んでくれる?」

「あぁ……うん」


年末年始、実家で過ごしていたため、

折原さんと一緒に食事をするのは、10日ぶりくらいになる。


「ねぇ……どう?」

「うん、『ぐるり九州』っていうのが、確かにいいかも」

「そう? 折原さんもそう思う?」


私は、定年を迎える父と、それを支えてきた母に、

豪華な列車を使って、九州を1周出来る旅行をプレゼントしようと決めた。

同じようなツアーは、あちこちの旅行代理店から出ているので、

折原さんならどう思うか、パンフレットを見比べてもらう。


「若い人たちなら、歩いて、色々とオプションで回るのもいいだろうけれど、
1週間だから、動きすぎると疲れると思うんだ。ある程度、決めてもらっていて、
なおかつ、余裕がある方が」

「うん……」


美味しそうに揚げたとんかつを食べながら、二人でパンフレットを挟む。


「父は、旅行なんて思いつく人じゃないから、私が強引に行かせようと思って。
知己は、決めてくれたら費用は半分出すって言ってくれたの」

「ほぉ……偉いね、弟君」

「まだ信用できない。口だけで、実際には出てこないかもしれないけどね、費用」

「あはは……」


旅行のパンフレットを見ているのは、本当に楽しい。

私は、関係ないページをあれこれ開き、その他のツアーを確認する。


「お父さん、子会社に移れるって、そう言っていたよね」

「うん……今までは千葉の支店ばかりだったけれど、子会社になることで、
東京にも……あ……」

「何?」


『同棲』すること。

それを話したということを、折原さんにも言っておいたほうがいいだろう。


「何?」

「うん。あのね、父が東京に出てくることもあるから、帰りが遅くなるようだったら、
知花の部屋に泊めてってそう言うから。私、折原さんと一緒に住むこと、話したの」


仕事で縁を持った人が、好意で安い賃料を提示してくれたこと、

2年という期限付きだけれど、会社からも近く、便利なこと。

そういった細かい話もしてきたと、正直に話す。


「まずかった? 話してしまって」

「いや、俺はいいけれど。ご両親、怒らなかった?」

「怒らなかった……といえば、少し違うかな」


きちんとした籍を入れる前に、一緒に住むこと。

二人とも、この決定に、大喜びしているわけではない。

でも、私が選んだというその思いは、しっかり認めてくれた。


「私は、二人で住むことが悪いことだとは思わないから、だから話したの」

「うん……」



『未来に続く……』



私はこの言葉を出そうとしたが、折原さんの顔を見て、一瞬戸惑った。

このセリフは、私自身が言うものだろうか。


「あの……」


そばにいたいという素直な思いと、決して、勢いだけではないということ。


「真剣に、これからのことも考えているって、そう言った?」


『これからのこと……』

2年というう期限ではなく、ずっと続く未来へのこと。


「うん……」

「そう」

「二人とも、私の話をきちんと認めてくれて……で、父に言われた」

「言われた? 何を」



『知花が選んだ男は、父親を正面から受け入れる男だと、信じているからな』



「それなら、お父さんが行っても、堂々と受け入れろって」


そう、自分たちの行動を、正しいと思うのなら、それが出来るはずだという、

父からの挑戦状。


「……うん、もちろん。俺は正々堂々、お迎えするつもりだよ」


折原さんは、いつ来てくれてもいいよと、そう言葉を足してくれた。

私は、父はどちらかというと口数少ない人だから、最初会ったらきっと、

機嫌が悪いと思うはずと、笑ってみせる。

折原さんの腕がそっと私の肩を寄せてくれた。

どうしてわかるのだろうと思うくらい、この人は、私の気持ちに敏感だ。

不安になるとすぐに、手が届く位置にいることを教えてくれる。


「俺の気持ちは……知花に十分伝わっていると思っているから、
だから一緒に住みたいと、そう言った」

「うん」

「君に渡さないとならない言葉は、決して、軽いセリフではないと思うから、
だから、もう少し……待っていて」



『軽いセリフではないと思うから……』



それは、未来へ続く言葉。



「うん……」



『知花……』



初めて、そう呼んでくれた。

照れくさいけれど、嬉しくて……


「……待っています」


いつか、必ず来るその日を、一緒に待つことが出来る。

それもまた、楽しいのではないだろうか。

その日までの階段を、二人で一歩ずつ進めたら、きっと……



重ねた唇は、その日が遠くない未来に来ることを期待させるくらい、

優しく温かいものだった。




【50-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
引っ越しを機に買い換える家電や家具。1位は照明、2位がテーブル。
理由は広さが変わるからというのが、一番多い理由だそうです。
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