51 新たな春に 【51-2】

【51-2】

そして、季節は流れ、桜の木が花を見事に咲かせ始めた3月の末。

その連絡は、朝一番の電話だった。


「はい、『DOデザイン』……あ、小菅さん」


小菅さんからの電話だとわかり、その時すでに事務所内にいたメンバーが、

受話器を持った優葉ちゃんに集中する。


「……はい、あ、おめでとうございます!」


小菅さんの赤ちゃんが、無事、誕生した。

塩野さんからも伊吹さんからも、口々によかったという言葉が飛び出てくる。


「あぁ……はい。あれ? 明け方に産んで、今、電話をかけているんですか?」


小菅さんは今朝3時に出産し、興奮状態のままなかなか寝られないと、

『DOデザイン』に報告を入れてきた。出産を経験していないのでわからないが、

そんなにすぐ、電話など出来るのだろうか。


「わかりました、みんなに伝えておきますから」


優葉ちゃんは、とにかく一仕事終えたのだから、しっかり寝るように話をするが、

小菅さんは電話を切るつもりはないらしく、なかなか会話が終わらない。


「おはようございます」

「あ、折原さん」


私は優葉ちゃんの電話の相手が小菅さんで、今朝、無事に出産したのだと、

喜びを報告する。


「今朝ですか」

「そうみたいです。3時だって」

「ほぉ……で、今電話?」

「そうなんですよ、すごいなと思って」


小菅さんの赤ちゃんは、女の子だと、以前からわかっていたため、

名前も『さくら』に決まっているらしく、体重が3120グラムあったこと、

顔がしわだらけで驚いたこと、大きな声でよく泣くこどなど、

これ以上、聞くことはないというくらい、細かく報告を受けた。


「そうか、あいつが母親になったか」

「はい……以上、報告です」


優葉ちゃんは、あれこれメモを取り、それを後から来た社長に、全て報告した。

社長は伊吹さんに向かって、おめでたいから花輪でも出すかと、冗談を言う。


「小菅に怒られますよ、パチンコ店の開店じゃないんですからって」

「あはは……そうだな」

「あいつのことですから、連れてきますよ、ここへ」


『さくら』ちゃん。

3月も残り少なくなったが、

『さくら』は新しい季節の訪れを、精一杯表現してくれた。


「あたたかくなったら、連れて来てくれますよね、きっと」

「うん……」


道場さんの言葉に、私はそうだろうと頷いた。





「『かたつむり運送』です」

「はい」


そして、私と折原さんの引越しが始まった。

両方が一度に越すのは大変だと言うことで、

折原さんが私よりも1週早くマンションへ入る。


「荷物は、指示通りでよろしいですか」

「はい。大きなものだけ間違えないようにしていただけたら、あとは動かせますので」

「はい。では、始めます」


私はマンションへ先に向かい、荷物が入っていくのを確認する。

引越し業者の方は、今月は目まぐるしく忙しいのだと、笑ってくれた。


「そうですよね」


しばらく搬入を黙ってみていたが、引越しが終わったら、

最後にペットボトルのお茶でも業者の方に渡そうと思い、

確かマンションの外に自動販売機があったことを思い出す。

財布を持ち、玄関を出ようとしたら、大島さんのお孫さんとぶつかりそうになった。


「あ……ごめんなさい」

「いえ、すみません、私の方こそボーッとして」

「いえ」

「あの……祖母がこれを」


本来、この部屋に住んでいた大学生の娘さんは、ご両親がタイに行く2年間、

5階にいる祖父母の部屋へ、移動してくれた。


「業者の方に、渡してって」

「あ……すみません。今、ちょうど買いに行こうとして」

「じゃないかと思って。うちにはたくさんあったんで、使ってください」

「すみません」


大島さんのお孫さんの名前は、『大島愛梨(あいり)』さんといい、

偶然、折原さんが出た『青峰大学』に通っていることがわかった。

将来は、お父さんのように英語力を生かし、通訳の仕事がしたいと、頑張っている。

愛梨さんは、業者が出て行く玄関が気になるようで、何度か見ていた。




【51-3】


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