51 新たな春に 【51-4】

【51-4】

「うん」

「いい色ですね」

「ですね」


ひとつずつ、形が出来ていくことに、嬉しい気持ちが増していく。

折原さんと組み立ての本棚を作り始めていると、業者から終了しましたと、

声がかかった。


「ありがとうございました」

「いえ……」

「あの、これを」


愛梨さんが持って来てくれたペットボトルのお茶を、お礼の代わりにお渡しする。

3人の業者の男性は、帽子を取り、もう一度礼をしてくれた。





「へぇ……大島さんが」

「そうなんです。買いに行こうとした時にちょうど愛梨さんが来てくれて。
それで、部屋の中が気になるみたいだったから、どうぞって入ってもらって」

「うん」

「愛梨さん、この本棚の部品を見て、なんですかこれって」

「あぁ……そうだろうな、組み立てていないから」

「だから、本棚になるんですよって教えてあげました」


私は、引越しが全て終わったら、上の大島さんたちを一度、

食事に招待してはどうかと提案した。折原さんもそれはいいのではないかと、

賛成してくれる。


「そうそう、愛梨さん、折原さんは……って気にしてましたよ」

「俺?」

「まだ来ていませんって言ったら、ちょっと寂しそうで……」


素直な人だから、表情でわかってしまった。

『残念』って気持ちが、顔に出ていた気がして。


「寂しそう……」

「はい」

「知花の言い方には、トゲがある」

「トゲ? ないでしょ」

「いやいや……」


折原さんは、そんなことはないと含み笑いを見せる。

私は、何も考えていませんと、必死に抵抗した。



……が、少しだけ、愛梨さんの表情に、やきもきしたかもしれない。



いや、していたはず。



そんなことに、いちいち動揺することなどないはずなのに。



「それにしても立地条件がいいな、ここ」

「うん……」

「明日から30分寝坊できる」

「は?」


私は、朝ごはんもしっかり食べてもらいたいので、寝坊はダメだと、

折原さんを注意する。

しばらく大きな窓の前に立ち、向こうに見える街並みが、

どんな様子なのかと、二人で話し続けた。





「よろしくお願いします」


引越し業者が仕事を終え、二人で遅めの昼食を食べた後、

揃って5階の大島さんの部屋へ挨拶に向かう。

私たちの借りる部屋の上にある、同じリビングには、小菅さんがデザインをした、

『ロッキングチェア』が揃って並んでいた。

大島さんの身長や体重、ご夫婦の意見を細かく取り入れた、

世界にひとつずつの椅子。


「これはね、切り替えられるからね、便利だよ」

「そうですよね」


揺らすときと、揺らさないとき。

リクエストで両方使えるものを、作りあげた。

大島さんは、老人会の人たちからも、うらやましがられると、嬉しそうに話してくれる。


「『DOデザイン』さんは、こちらがお願いしたら、
どんなものでも作れてしまうのでしょ」

「どんなものでも……まぁ、出来る限りやりますよ」

「それならねぇ、ほら、愛梨」

「うん」


愛梨さんは、今、大学でお世話になっている講師の女性が、

ちょっとした趣味の家具を探していると話し出した。


「大学の講師」

「はい。すごく素敵な方で、私たちにも色々な体験談をしてくれるんです。
もとは、大手の商社に就職されたのですが、教授が大学に呼び戻したらしくて」


その講師の女性は、親の介護もあり、いまだに独身なのだという。


「で、趣味というのは、どういう」

「あ……はい」


趣味は年代ものの和服を集めることらしく、そのコレクションを入れる、

タンスを探しているということだった。

しかし、家具店をいくつか回ったが、

なかなかいいと思うものがなく考えているという。


「和ダンスではなく」

「そうらしいです。少し聞いただけなので、はっきりとはわからないですけど、
こう……見た目は和に見えないけれど、中は和……そういうものってありますか」


現代は、色々なこだわりがある人が多く、確かに和洋折衷といえるものも多い。

以前、食事をさせてもらった『浪漫亭』は、まさしくそういうお店だった。


「見た目は洋風で、開けたら和風」

「はい」

「わかりました。よかったら、『DOデザイン』にと薦めてあげてください」


伊吹さんや道場さん、うちには色々はデザイナーがいるので、

そんな注文にも、応えることは出来るはず。


「折原さん」

「はい」

「名刺、愛梨さんに渡してあげてください」

「は? 俺ですか。今自分が……いや、長峰さんがどうぞって……」

「私の荷物はまだ、向こうですし、名刺は会社です。
折原さん、名刺、いつも財布に入れているでしょ」


私はズボンの後ろポケットに入れてある折原さんの財布に、軽く触れた。




【51-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

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