51 新たな春に 【51-5】

【51-5】
「よく知ってますね、ここに入っていること」


折原さんは財布を出すと、そこに押し込んでいた自分の名刺を、愛梨さんに手渡した。

愛梨さんは、その名刺を嬉しそうに受け取り、軽く頭を下げてくれる。


「悪いねぇ」

「いえ、そんな」

「愛梨、よかったな」

「うん」

「これがまた、いいご縁になるといいねぇ。久我さんや小菅さんたちのように」

「あぁ……はい」


大島さんの温かい言葉に、私も折原さんもその通りだと頷いた。

その日は、ペットボトルの差し入れについてお礼も言い、

美味しいケーキと紅茶を、ご馳走になり、私たちは部屋へ戻った。


「はぁ……」


折原さんは部屋へ戻ると、すぐにソファーへ寝転んだ。

ポケットに入れてあったタバコを、テーブルの上に置く。


「とりあえず、向こうの言うとおり名刺を渡したけれど、俺はかかってこないと思うな」

「かかってこない? どうして?」

「こだわりがあるのでしょう。注文家具を作ろうと思っているのなら、
もっと早くに動くだろうし。探していることが楽しい人っているじゃないですか。
ほら、モデルハウスとかを休日になるとやたらに回る人たち。
きっと、そういう部類なはず」


折原さんはそういうと、リモコンを取り、テレビをつける。

私は、あらためて何かを飲みますかと聞いてみた。


「今はいいや、紅茶2杯も飲んだし」

「あ……そうか」


少なくなると、大島さんの奥さんは、すぐに紅茶を継ぎ足していたため、

折原さんは、それを何度か繰り返していたっけ。


「でも、かかってくるかもしれませんよ。教え子が先生のために動いたわけですし」

「そんな人情の厚い講師なんて、今時いるかなぁ……」

「ひどい……そういう人もいますよ、絶対に」


私たちは、それからしばらく、荷物を出しては引越しの続きをし、

ご近所を探索する目的でスーパーへ買い物に出かけた。

夕食になりそうなものを買い込み、部屋で食べ終えたあと、さらに続きに取りかかる。

折原さんが持ち込んだ本棚も完成し、リビングに置く予定の電化製品も設置を終えた。


「今……何時?」


携帯で時間を確認すると、結構なところまで進んでいた。

そろそろ戻らないと、部屋につく頃に日付が変わってしまう。

明日はまた、仕事。


「折原さん、私、そろそろ帰ります」

「ん? あ……そうか」


折原さんが使う予定の8畳には、ベッドなど家具も入ったけれど、

私の荷物はまだアパートにあるから、部屋は空っぽ。


「来週は私が越しますから。それまで綺麗に使ってくださいね」

「綺麗に? あぁ、はい、はい。余計な動きはしないようにします」


折原さんらしいセリフに、思わず笑ってしまう。


「洋服、いくつか持ってきたらよかったのに」

「そうですけど、まだ完全に準備が終わっていなくて。
荷物も使わないものから入れているけれど、あのまま日曜日を迎えたら、
業者の方が困るし」

「そっか……」


折原さんは、女の引越しは時間がかかりそうだと、余計な一言をつぶやいた。

私は、通り過ぎた背中を軽く叩く。


「イテッ……」

「聞こえてますからね」


折原さんは冗談ですと笑顔で返し、玄関にある靴箱の上に置いた車の鍵を取った。


「送るよ」

「はい」


私は、上着を羽織ると、お願いしますと折原さんに頭を下げ、バッグを手に取った。





そして、次の日。私は、いつものラッシュにもまれながら、事務所へ向かう。

折原さんは、きちんと起きただろうか。


「おはようございます」

「あ……おはよう、知花ちゃん」


私はいつもの時間の電車に乗り、ほぼ変わらない時間に事務所へ入った。

とりあえず、折原さんの席を見る。まだ、来ている雰囲気はない。


「お……長峰、ちょっといいか」

「はい」


この春、私の新しい仕事が入ったと言いながら、

社長がすぐにでも屋上へいけるように、タバコとライターをポケットに入れる。


「『工藤美貴』ですか」

「そう、知っているだろう」

「もちろん知ってますよ、あの……アイドルから女優になって、えっと……」

「なんとかって俳優と結婚した」



なんとか……



「社長、『羽田太一』ですよ。もう、少し前に言ったばかりでしょう」

「おぉ、そうだった。そうだった」


社長はすぐに忘れると、アイドルや芸能界に強い優葉ちゃんから怒られ、

デスクの中から何やらメモを取り出した。

また、ドラマの中で、家具が必要なのだろうか。


「で、二人の一人娘が来年小学校に上がるそうなんだ。その勉強机や、洋服タンス、
本棚、鏡台など、ぜひトータルコーディネートで作ってもらえないかと、
そう連絡が入った」


『羽田太一』と『工藤美貴』。

10年くらい前に、キラキラしたようなドラマで競演し、夫婦になった二人。

その一人娘さん用の家具。


「それを私が……ですか」

「そう、それが工藤美貴と舞台で競演することになった小林蘭子さんが、
長峰の名前を挙げてくれた」


小林蘭子さん。

ベテラン女優で、私の『ジュエリーボックス』を気に入ってくれた。

スタジオ見学で、嬉しそうに手を握ってくれたことを思い出した。




【51-6】


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