52 心の隅 【52-3】

【52-3】

「工藤美貴の事務所」

「そう。部屋の写真とか、色々持ってきてもらうことになって」

「まぁ、さすがに有名人だから、自宅に来させるのはイヤだってことですか」

「私も嫌。知らなくてもいいところまで知るみたいで。
娘さんのものでしょ。そんなに突拍子もないものを作るとは思わないし、
もし、こういうものという参考になる写真でもあれば、用意してくださいと
お願いしてある」

「ほぉ……」

「折原さんの思い出のためにも、工藤さんが幸せかどうか、確かめてきますね」

「は?」


折原さんの思い出の女性が、工藤美貴に、似ているという話。

軽い冗談に変えてみる。


「あぁ、はいはい。確認してきてくださいね。まぁ、幸せでしょうよ。
仕事もうまくいっているし、子供もいるわけですし。あぁ、もう、
思い出話も出来ないんですね……」


折原さんは、過去でしょうというセリフを、さらに付け足した。



『自分と関わってくれた人が、不幸になってほしくないですし』



そう、そう思う気持ちは、私にもよくわかる。

工藤美貴のこと、軽い冗談のつもりだったのに、

確かに、なんだか嫌みっぽい言い方になってしまった。


「ごめんなさい」

「どうして謝ります?」

「なんだか自分が嫌な人間だなと……」


そう、嫌な人間だと……

折原さんは、パンをかじりながら、私の目をじっと見る。

その口元が楽しそうに動いた。


「いいですよ、そういう焼き餅って、女の特権でしょう。
俺はなかなか楽しいですけど……」

「楽しい?」

「はい」


そう言いながら、スクランブルエッグにケチャップをつけた後、

折原さんの目が動く。


「また?」

「……また? いや、まただっけ?」

「マヨネーズでしょ。どうしてもないとダメ?」


折原さんと、食事を重ねているうちにわかったことがある。

彼はとにかく『マヨネーズ』が好き。


「どうしてもではないけれど、あの味に慣れているというか……」

「どうしてもと言わないのなら、これで食べてください」


スクランブルエッグには、ケチャップで十分。


「独身の男って、『マヨネーズ信仰』があると思うのですが」

「……折原さんだけです」

「そうかなぁ……」


私は残ったパンにジャムをつけ、テレビのニュースを見ながら口に入れる。

朝はニュースを見るのが、一番時間がわかりやすい。

決まった時間に交通情報が入り、決まった時間に天気予報が入る。


「さて、そろそろ支度」


私は食べ終えた食器を重ねると、流しにいれ、すぐに洗っていく。

折原さんもカップに残ったコーヒーを飲み干すと、遅れて出してくれた。





同じタイミングで部屋を出たものの、私は工藤美貴の事務所へ直接向かうため、

途中の駅で路線を変更した。場所は調べたし、時間も確認した。

マネージャーの名前は、安藤さん。あとは本人に希望を聞くだけ。

駅を降りてビルを探すと、

絶対に間違えようもないほどの、大きなポスターが貼り出されてあった。


「ここだ」


エレベーターのボタンを押し、5階を目指す。

扉が開くと、目の前には事務所の受付があり、そこに座っていた女性が、

立ち上がり会釈をしてくれた。


「すみません、『DOデザイン』の長峰と申します。今日は工藤さんと安藤さんに」

「はい、少々お待ちください」


よかった。聞いていませんなんて言われたらどうしようかと思ったけれど、

それはなさそう。受け付けの女性はすぐに扉を開け、

奥から2つ目の部屋をノックするようにと、教えてくれた。

奥から2番目。パーテーションで仕切られた場所にある扉を数える。

すぐに叩こうとしたがそれを止め、もう一度『奥から2番目』なのかを再確認する。



間違いない……



私が軽くノックをすると、中からどうぞと声がした。

ドアノブをひねり、中へ入る。


「わざわざありがとうございます、工藤です」

「あ……」


あの、人気ドラマの中で、スチュワーデスとして、世界の空を飛び回っていた……

また別のドラマでは、看護婦になって優秀な医師との不倫に悩み……

そして、この間のドラマでは、未婚の母となったことで、猛勉強し弁護士になった……



女優の工藤美貴さんが、目の前に立っている。



「……何か」

「あ、すみません、『DOデザイン』の長峰です」


いけない。仕事に来ているのに、つい、芸能人を見ている目で見てしまった。

これでは優葉ちゃんのこと、色々言えない。


「はい。どうぞ、こちらへ」

「ありがとうございます」


私は工藤さんの指示に従い、向かい合うようにソファーへ腰掛けた。

それにしても、綺麗な脚、細いウエスト。

同じ人間だとは、思えない。

目の下にある泣きぼくろ、あのおかげで、少し不幸を背負った女性の役が、

いつもピッタリだと思っていた。


「あんちゃん、下で美味しいコーヒー、買ってきて」


工藤さんの指示で動いたのは、マネージャーさんだろうか。


「えっと長峰さん。このあと、私仕事があるものですから、1時間くらいしかなくて。
早速本題に入ってもいいかしら」

「あ……はい、もちろんです」


今日は仕事に来たのだから、見とれている場合ではない。

工藤さんに出してもらった部屋の写真と見取り図。

お嬢さんの部屋は、6畳の洋室だった。


「私は全て白に統一したいの。汚れるという意見もあるけれど、
そんな現実的なことに囚われていたら、オリジナルにならないでしょ。
素材の選び方によって、傷つきにくいものもあるだろうし」


白……

確かに、女性に好まれる色だけれど、子供の家具としてはどうだろう。

せっかく木を使うのだから……


「とりあえず、どれくらいのサイズなのか、それから予算など、
全体的な部分から伺ってもよろしいですか」

「あ……そうね」


私はメモを取り出し、工藤さんからの要求を全て書き写した。




【52-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【大島愛梨】
吉太郎の孫娘。紘生の出た『青峰大学』に在学中。
英語が大好きなので、将来は通訳の仕事がしたいと張り切っている。
今は祖父母と5階に生活。

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