52 心の隅 【52-4】

【52-4】

事務所を出て、『DOデザイン』に戻っていく。

正直、いつもの仕事よりも数倍疲れた。

さすがに予算もある人のやることだ。

『お姫様のように……』というセリフを、何回、口に出していただろう。

伊吹さんに聞いてみよう。『白』の限界……


私はエレベーターに乗り、もうすぐ昼になるという時間に、

初めて自分の席についた。


「はぁ……」

「知花ちゃん、どうでした? 工藤美貴」

「うん……さすがに希望する部分が多くて、書き写しているだけで大変だった。
わがままというわけではないのだけれど……」

「あぁもう、違いますよ。そういうことではなくて、綺麗だったのかという事です」


優葉ちゃんは、私は仕事に興味がないのでと言いながら、

テレビで見る印象と違うのかどうかと聞いてくる。


「綺麗……あぁ、うん、そう綺麗だった。脚もそうだし、顔も小さくて……」


それは確かにそうだった。さすがに芸能人というオーラもあった。

私は、ウエストがこれくらいだったと、両手で楕円を作ってみせる。


「ですよね、そう、やはり本物はそうですよね」

「本物?」

「はい。実は驚きがあったのですよ、今朝」

「驚き?」

「ですよね、塩野さん」


塩野さん?


「そうなのよ、朝、事務所に仕事の依頼に来てくれた人が、
まぁ、『工藤美貴』に似ていて」



工藤美貴に……似ている。



「どちらかというと、昔のドラマに出ていた頃の方が似ていた?」

「エ……そうですか? 今でも似ていますよ、絶対。
だから私、もしかしたら打ち合わせ場所を、知花ちゃんが間違えて、
直接ここへ来てしまったのかって」

「そうそう、ちょっと焦ったね、一瞬」


いつものミーハーな優葉ちゃんが言うのならともかく、

塩野さんまでもがそういうとなると、本当に似ている人なのだろう。


「それが、折原さんのお客様で……」



折原さん……



「なんだか、『青峰大学』の人だとかなんだとか……誰かの紹介?」

「そうそう」



青峰大学……紹介。



『はい、そうです。昔、付き合った人が、工藤美貴に似ている人でした。
大学の先輩で、サークルで知り合いました。彼女は……』



折原さんの元彼女……



その人ではないだろうか。



「落ち着いた感じの人でしたね。折原さん、大事な人の紹介だからって、
慌てて出て行きましたけど、まだ戻ってないですね」


確かに、大家さんの娘である愛梨ちゃんからの紹介なのだから、

大事なことは間違いないけれど、折原さんが慌てていたのはそうではないだろう。



過去……



それはわかっているけれど、なんだろう……



どこかでそう割り切れない、ざわざわとした胸騒ぎがしてくる。



「おぉ、長峰、どうだった」

「あ、はい。伊吹さん、えっと……」


余計なことを考えている時間はない。私には仕事がある。

折原さんの事情なら、家でゆっくり聞けばいいのだから。

私はそう考えることにして、伊吹さんの前で、メモを広げて見せた。




【52-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【大島愛梨】
吉太郎の孫娘。紘生の出た『青峰大学』に在学中。
英語が大好きなので、将来は通訳の仕事がしたいと張り切っている。
今は祖父母と5階に生活。

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