53 過去と未来 【53-6】

【53-6】

「あの……」

「何か」

「私はデザイナーですので、どのお部屋でも、どういう条件でも、
出来る限りご希望にはお応えしたいですけれど、プライベートな問題まで、
入り込むことは出来ません。どうか、お二人でしっかりと話し合って、
決まってからご連絡をいただけますか」


一生懸命に考えたものが、また流されるようなことにはなりたくない。

この状況だと、こちらの意見を聞けば、また向こうからストップがかかってしまう。

そもそも、これだけ考えが違っていて、

本当に子供の家具を作る気持ちがあるのだろうか。


「お嬢さんのために作るのですから、どうかご夫婦で協力してください」


娘さんは、この状態をどう思っているだろう。

大好きなご両親が、いがみ合っているなんて。

しばらく相手からは、返事らしきものもなく、ただ時間だけが過ぎていく。

このまま座っていても、無駄なだけ。


「それでは今日は、これで……」

「長峰さん」

「はい」


羽田太一の、真剣な目がこちらを見ている。

何か言い返してくるだろうか……

私はそう思いながら、自分の手を握り締めた。


「そうですね。あなたのご意見はもっともだ。
私たち夫婦が、意地を張っている場合ではありませんね」

「はい」


そう、娘さんのためなのだから。『親』という立場で、協力しあうべき。


「わかりました。もう一度こちらから連絡を入れましょう」


私はお願いしますと頭を下げ、部屋を出て行こうとする。

羽田太一は、食事をセッティングしているので、食べてくださいとそう言い出した。

仕事が進むわけではないのに、それは困る。


「いえ、結構です」

「もうあなたが到着した時点で、作り始めていますから、食事だけでも」

「それなら、マネージャーさんと……」

「ん?」


私は、いつも仕事を一緒にしているマネージャーさんと食べたらどうだと提案した。

羽田太一は、それを聞き、いきなり大きく笑い出す。


「あはは……それは……ないな」

「ないですか」

「向こうも嫌でしょう。寝るとき以外はいつも一緒のようなものですからね。
せめて今回の食事くらい、離れていたいと思っていますよ」


羽田太一がそばにあるボタンを押すと、すぐにウエイターが顔を出した。

そして料理を運ぶようにと指示してしまう。


「とにかくどうぞ。ここは僕の贔屓にしている店です。
あなたにそっぽを向かれてしまったら、恥をかくだけですから。申し訳ないが……」


確かに、向こうなりに考えてくれたことであるのは間違いない。

羽田太一の意見に、それ以上言い返すことが出来なくなる。


「それなら、料金をお支払いしますので」

「支払い?」

「はい。私の分だけですが」


食べたものの代金を払えば、借りは作らなく済む。

私はそう話し、値段を聞く。


「2万です」

「……エ」



2万円。



「あ……あの……」


給料日前で、1万円しか財布には入っていない。

2万円のお昼ご飯だなんて、どう考えても……


「あの……」

「何か」



カード、使えるだろうか……このお店。



「冗談ですよ、そんなにするわけがないでしょう。そんなふうに驚く顔をして。
長峰さんは、真面目な方ですね。本当にたいした料金ではないですから、
とにかく座ってください」


冗談……

肩に入った力が、一気に抜けてしまう。


「久しぶりに、楽しい食事になりそうです」


私にそういうと、羽田太一は、ワイングラスの残りを飲み干した。





創作中華の店。確かに出された料理は美味しかった。

羽田太一は、もう一度連絡をくれると言っていたけれど、大丈夫だろうか。

『離婚』を考えているとなると、どちらも意見を引くことがなさそうで。


お姫様のようにかわいらしく、『白』で統一。

素材を吟味して、長く使えるいいものにこだわる。


両方の親とも、子供のことを考えて……なのだろうが、

子供自身は、どう考えているのだろう。



『もう、お父さんは!』



私の母も、よく愚痴を言っていた。

父は口数が多いほうではないし、愛想もいい方ではない。

でも、母の誕生日はいつも覚えていて、

私や知己に何か美味しいものを買って来いと、よく言った。


親が二人、いつも揃っていて、その親がいつも……

自分を見てくれていることは、当たり前だと思っていた。


「ふぅ……」


小学校に上がるお祝いの家具なのに、気持ちはどこか重たいままで、

事務所に戻る足取りも、ため息ばかりが先行した。




【54-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【高橋都】
『青峰大学』の講師を務める女性。
紘生が学生時代、お付き合いをしていた人で、女優の『工藤美貴』に似ている。
家族に対する悩みを持ち、複雑な日々を送ってきた。

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