54 小さな依頼 【54-1】

54 小さな依頼

【54-1】
それから1週間。

忙しいのかもしれないが、羽田太一からも工藤美貴からも、何も連絡がない。

『FREE』のコラボ家具が、見本を作るところまで進み、

私はどうなるのかわからない仕事を抱えているため、

折原さんだけが工場に向かい、色々と手直しをしてくれた。


「あぁ……もう」


今日もまた、何も連絡がないのだろうか。

これだけ自由にされてしまうと、ストレスばかりが溜まってしまう。


「さすがトップ芸能人ですね」

「トップかもしれないけれど、こっちは振り回されてしまって……」


優葉ちゃんの言葉に、私は自分のイライラを付属して、言い返す。


「そうですよね、いくらなんでも自由すぎますよ。
社長に間に入ってもらって、こちらから連絡をして、期限を決めたらどうですか?」


道場さんの意見ももっともなのだけれど。


「そうしたいのは山々なんだけど。羽田太一にかけるべきなのか、
最初に言われた工藤美貴にかけるべきなのか、迷うのよ」


二人の意見がバラバラだとわかり、どちらの意見を参考にすればいいのか、

私にはよくわからなかった。


「そうか、こちらをたてると向こうがってことですね」

「そう。向こうの指示に従わないと、そっちが勝手にって言われても、
あとから面倒でしょ」


壁の時計が、思ったよりも進んでいない。

もしかしたらと思い、携帯で確かめる。


「やっぱり……」

「どうしました?」

「時計、遅れてます。あと2分で5時ですよ」

「……本当?」


塩野さんはそうかしらと言いながら、同じように携帯を広げた。

一瞬、社長と二人で撮っている待ちうけが見えたけれど、

見てはいけなかった気がして、すぐに目をそらす。


「そうね、そういえば」

「うわぁ……それは困ります。勤務時間が……」

「オーバーね、電池を変えればいいじゃないの」


今日は伊吹さんと社長が外周り。折原さんは『FREE』の仕事から、

さらに別仕事があるらしく、『DOデザイン』の中は女だけ。


「明日、朝一番に来た男性に変えてもらいましょう」

「そうですね」


そんな話題をしていると、事務所の扉前に、

大人と子供が一人ずつ、立っているのが見えた。ちょうど逆光になってしまい、

私の方からだと顔がよく見えないけれど、向こうはすぐに頭を下げてくれる。

とにかく扉に近付き開けて見ると、そこに立っていたのは、工藤美貴のマネージャーと、

白い帽子を被った、小さな女の子だった。


「すみません、急に」

「いえ……」


優葉ちゃんは勤務時間終了にも文句を言わず、

お客様たちにコーヒーとジュースを入れてくれた。

小さな女の子は、羽田太一と工藤美貴の娘、『菜々』ちゃんだとわかる。


「ありがとう」

「いいえ」


マネージャーの大場さんは、いつも幼稚園へ菜々ちゃんを迎えに行くらしく、

今日も同じように出かけたのだが、菜々ちゃんがどうしてもここへ行くと、

言い張ったのだと言う。


「菜々のお話を聞いてくれるところへ行くって、タクシーの中で泣き出しまして」


菜々ちゃんは、自分のことを言われているのがわかっているのだろう。

ジュースのコップを持ったまま、悲しそうに下を向いている。


「菜々ちゃん、大丈夫、パパもママも怒ったりしないから。
菜々ちゃんが、こういうふうにしたいっていうことを、
この長峰さんにお話に来たって、ちゃんと話してあげるから……ね」

「本当? 怒られない?」

「怒られないよ。だって、菜々ちゃんのお祝いの家具を作るんだもの」


菜々ちゃんは、コップを持ったまま、しっかりと一度頷いた。

塩野さんや道場さんも、この小さな依頼人が何を言うのかと思い、

勤務時間が終了しても、席を離れずにいる。


「さて、では、菜々ちゃんの意見を……」

「まあるいテーブルが欲しいです」



まあるいテーブル。



「まあるいテーブル? あれ? こういうふうにライトがついて、
たくさん引き出しがある、お勉強の机じゃないの?」


まあるいテーブルとはどういうことだろう。

聞いているのは、勉強机、タンス、本棚、ベッドなはず。


「まあるいテーブルが……欲しいの」


お人形遊びでもするつもりだろうか。

それとも……


「ねぇ、もしかしたら、こういうの?」


道場さんがメモにイラストを書き、菜々ちゃんの前に差し出した。

菜々ちゃんはそれを見るなり、何度もその通りだと頷く。


「長峰さん、ちゃぶ台のことですよ」

「ちゃぶ台?」

「はい」


確かにちゃぶ台は『まあるいテーブル』だけれど、ご両親が見せてくれたマンション。

どちらも洋風のフローリングだった。ちゃぶ台を作っても……


「どうしてちゃぶ台なの?」


ちゃぶ台を作りたいという菜々ちゃんに、私は思わずそう聞いていた。




【54-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【羽田太一・工藤美貴】
『心にスマッシュ』というドラマで共演、夫婦となる。
美貴と舞台で共演する小林蘭子の紹介で、
一人娘の菜々のために作る家具を、知花が担当することに。

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