54 小さな依頼 【54-2】

【54-2】
菜々ちゃんの顔を見ながら、自分の幼い頃のことを思い出す。

小学校にあがる前、部屋をもらうことが決まり、

ランドセルや勉強机が揃っていくことが、とても楽しみだった。

菜々ちゃんも同じように、それを期待していると思っていたのに。


「勉強机ではダメなの?」

「ダメ……」

「どうして?」

「お勉強の机はダメなの。ご飯が食べられないの、みんなで」



……みんな



「パパもママも菜々も、みんなでご飯が食べられないの……」


菜々ちゃんはそういうと、大きな瞳からポロリと涙を流してしまった。

マネージャーさんは、今からおばあちゃんも一緒に、美味しいものを食べるでしょうと、

必死になだめようとする。


「……まあるいテーブル」


ちゃぶ台のイメージ。

菜々ちゃんは、アニメや本でちゃぶ台を見たのだろう。

それは小さな丸だけれど、そのまわりをみんなが囲み、一緒に食事をする。

ひとつのものを、みんなで分け合って……



『親が忙しくて……』



そういえば、紘生も前に食事は一人のことが多かったと、言っていた。

親には親の事情があるし、私があれこれ言えることではないけれど、

菜々ちゃんの希望は、お姫様のような白い家具でも、

素材を選び抜いた一級品の家具でもないことがわかる。


「菜々ちゃん」

「なぁに?」

「わかった。まあるいテーブル、長峰さんがなんとかする」

「本当!」


それまで下を向いていた菜々ちゃんが、初めて嬉しそうな声をあげてくれた。

マネージャーさんはそんな約束をしていいのかと、驚いた顔をする。


「菜々ちゃんの一番欲しいものだものね」

「うん……」


それから10分後、菜々ちゃんは嬉しそうに手を振り、事務所を出て行った。

帰りそびれた3人と、私。


「はぁ……」


優葉ちゃんのため息が、事務所内に落ちていく。


「お金もあるでしょうに。まあるいテーブルですか」

「人の幸せは、お金だけではないってことよ。特に子供は」


塩野さんは電卓をデスクにしまい、カギをかける。


「仕事も大事ですしね、働いていることを責めるのも」

「そうだよね」


これからの女性は、結婚をしても仕事を持っていていいと思う。

私も道場さんも、少なくとも仕事を捨てる気がないため、

なんとなく言葉が口から出てしまった。

もう、事務所を出て行ける時間なのに、なんとなく腰が重たいままで、

4人が外に出るまで、さらに20分がかかった。





『小さな依頼』

何も権限のない、小さな子供の依頼だったけれど、私にはずっしりと重かった。

当たり前のように大人になったけれど、自分の子供の頃を思うと、

ごく普通の生活が、恵まれていたのかもしれないと、そう感じられる。

少し怖い父がいて、いつも笑っている母がいて、いたずらして泣き虫の弟がいて、

私は……



その『家族』に何度も助けられた。



「ただいま」

「あ……お帰り」


紘生が家に戻ってきたのは、夜8時を過ぎた頃だった。

私は食事の支度をしながら、今日、来てくれた菜々ちゃんのことを話す。


「へぇ……あの夫婦の娘さんが」

「そうなの。しっかりしていたわよ、さすが女の子。
きちんとご挨拶して、ジュースもらって、それで自分の希望を言えて」

「『まあるいテーブル』かぁ……」

「うん」


彼は、どう言うだろう。

小さな菜々ちゃんの、小さな願い。


「毎日じゃなくてもいいんですよ。少しの時間でも、
それを自分のためにあけてくれたことがわかるだけで、子供は満足できる」


そう、仕事だって大切なことくらい、十分わかっている。

テレビの中でキラキラしているママやパパのことだって、菜々ちゃんはきっと、

認めているはず。


「でも、その菜々ちゃんは立派ですよ。言えるんですから」

「そう……ちゃんと言ってましたから」

「俺は、言えませんでしたから」


お仕事が忙しかった両親の代わりに、

よく顧問弁護士の番場さんが面倒を見てくれていたと、確かに以前、聞いたことがある。


「大人になると、逆に割り切れるんですけどね、
子供は親がいなければ何も出来ないから、まともにダメージをくらうわけで……」


紘生がいつも家族のことを語るときには、確かに重たい感じだけれど、

今日はさらに……



表情も、セリフも重たい。



「何か……ありました?」

「エ……」

「なんだか、気持ちが重たそうで」

「あぁ……」


菜々ちゃんのことで、過去のことが思い出されたのだろうか。

それとも何か、あったのだろうか。




【54-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【羽田太一・工藤美貴】
『心にスマッシュ』というドラマで共演、夫婦となる。
美貴と舞台で共演する小林蘭子の紹介で、
一人娘の菜々のために作る家具を、知花が担当することに。

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