54 小さな依頼 【54-6】

【54-6】
時計は夜の11時を回った。

お風呂も入ったし、することも特にない。

母から送られて来た旅行の予定表。今日は熊本で宿泊しているはず。

母に一方的に話されて、そろそろ父も疲れてきているだろうか。



『もう、続きは明日にしろ』



そんなふうに言われた母は、迫田の伯母にでも電話をしているかもしれない。

それとも疲れてしまった体を投げ出して、父にここを揉んでくれと、

せがんでいるかもしれない。

携帯にメールが届く音がしたため、私は受話器を開けた。



『ごめん、今日も夕飯はいりません。先に寝ていて』



『ごめん』の一言があるだけで、

連絡できなかったことが申し訳ないと思っているのはわかる。

でも……



私が聞きたい言葉は、これではないのに……



結局、日付の変わる頃まで起きていたが、

眠気に勝てず、そろそろ眠ろうかと思った1時前、玄関の鍵を開ける音がした。

自分の部屋の取っ手を持ったまま、扉が開くのを待つ。


「……おかえり」

「……あ……うん」


私が起きていると思わなかったのか、紘生は一瞬驚いたような顔をしたが、

すぐに笑顔を見せてくれた。


「遅かったね」

「うん……ごめん、もっと早く連絡をしなくちゃいけなかったのに。
後からと思っていたら、あっという間に時間が過ぎていて」


紘生は明日も仕事だからと、すぐに部屋へ入っていく。

そう、仕事なのはわかっている。だけれど……


「ねぇ」

「何?」

「高橋さんの仕事、そんなに大変なの?」


『有給』の疑問も、どうしてこれだけ遅くなるのかという疑問も、

黙って押し込めることが出来なかった。

紘生は私に言ってくれたから。



『必ず応えますから……』



そう、言ってくれたから。


「ちょっと……色々とあってさ」

「色々? そんなに難しい仕事なの? 材料? それとも予算?」


何か手伝えることがあるのなら、手伝いたいとそう思った。

いいものを作りたいと思うのは、当たり前のことだし、それに応えたいと思うのも、

デザイナーとしては当然だ。


「いや、そうじゃないんだ」


紘生は、『色々』という言葉をまた使い、その場を納めようとしているように思えた。

私が聞いてもわからないということだろうか、



それとも……



聞いて欲しくないということだろうか。



「知りたいと思うのは、迷惑?」


今まで、どんな仕事をしていても、相談したりされたりを繰り返してきた。

私は、デザイナーとしては彼より未熟だし、才能もないけれど、

それでも、何かを覚えていたことで、彼の役に立てたことがあった。

今回だって、きっと……


「迷惑じゃないけど、いいよ、無理に関わらなくて」

「無理にではないの。何か役に立てたらって……」


私は今日、愛梨さんに会い、

高橋先生のタンスが大変なのではないかと、言われたことを話した。

大変なのなら、手伝いたいと思うのは当然だろう。


「どうして愛梨さんが、高橋さんのことを大変だと思っているのか、
その理由は聞いたの?」


どうして……


「高橋先生が、どうなっているって言われたの?」


何かを見抜こうとする目。紘生の目が、私を見ている。

本当はわかっているんだという、強い気持ちを込めた視線。


「……有給、取っているって、昨日と今日。だから、それだけ大変なのかって……」


紘生が部屋の中で、荷物を置く音がした。

ドサッという投げやりな音が、言葉に出していない感情を、

示しているような気がして……


「ようするに俺……疑られているのかな」

「紘生」

「これだけの時間がかかって、朝から大学に行くとか言っておいて、
実は彼女が有給を取っていたから、本当は二人で何か……いや、
自分を裏切ってとか……そういうこと?」


違うのだと言い返したいけれど……

でも、言い返せない。



言い方は同じかどうかわからないけれど、わからないだけに不安があって、

それほど遠くない感情が、私の中にあるから。



言い返すことが出来なかった。




【55-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【羽田太一・工藤美貴】
『心にスマッシュ』というドラマで共演、夫婦となる。
美貴と舞台で共演する小林蘭子の紹介で、
一人娘の菜々のために作る家具を、知花が担当することに。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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