55 見えないもの 【55-1】

55 見えないもの

【55-1】
「はぁ……」


紘生からの、何を考えているんだという、無言の抗議。

下を向き、落としたため息は、私にそう詰め寄ってくる。


「知花がそんなふうに考えるのは、過去にウソをつかれた、
トラウマなのかもしれないけどさ、前の人に裏切られていたっていう……」


前の人……


「俺はこうして、君と一緒に住んでいるんだ。状況でわかるだろう。
俺は、君にウソなどつかないで生きてきたし、今もそうだ。
確かに、彼女の『有給』という事実はあったから、
大学には行かずに、別の場所で高橋さんと会った。でも、それは……」


言葉が止まり、またため息が床に落ちる。



めんどくさい……



紘生の顔はそう言いたげな気がする。

いちいち説明しなくても、わかってほしいという思い。


「思うことは口に出して、本音でって言ってくれたのは紘生でしょ。
私は……わからないから、だから不安で……」


色々あるだろうけれど、大変なのだろうけれど、それをとことん話してくれれば、

私だって、いくら一人でも、どんなに帰りが遅くなっても、平気でいられる。


「ようは裏切られていないか、不安だってことで、
高橋さんと妙なことになっていないのかどうか、そこだろ」


紘生はそういうと、リビングに立っていた私の手を引き、

そのまま部屋の中に連れて行く。ベッドの横に座らされ、

ここでゆっくり話をするのかと思ったが、急に服を脱ぎ始めた。


「紘生……」


上半身は裸の状態で、紘生は私の体をそのままベッドに押し倒した。

言葉もなく、いきなり唇を合わせても、気持ちがついていかない。

まるで、やらないとならない義務を、ただこなそうとするような態度で、

力任せに私を支配しようとする。


「ちょっと……ねぇ……」


一方的なペースに巻き込まれまいと、服の中に入ってくる手に抵抗し、

紘生の体を押し返す。

私が不安なのは、高橋さんと一緒の時間が長かったからではない。



紘生の気持ちが……どこか別の方向を見ている気がして仕方がないからなのに……



「いや……」


払いのけた手は、諦めることなくまた別の場所へ伸びようとする。

私は、脚を動かし、半回転しているところでベッドから転げ落ちた。


「イッ……」


左手首……


「俺は君を裏切ったりしていない。気が済むまで調べたらいいだろう。
服でも、体でも何でも……」


違う……

もう一度私の手を引き、さらに続きを迫ろうとする紘生の頬を、右手ではたいた。


「こんなこと……違う」

「知花……」

「おかしいの……紘生、近頃おかしいんだもの。仕事から戻っても口数は少ないし、
何を聞いてもどこか上の空だし、私は、あなたが大変なら、
一緒に考えたいと思っているだけ。高橋さんが相手だからとかではなくて……」



あなたを選んだのだから……



これからの人生。ずっと一緒にいようと、そう決めた人だから。



「こんなふうに抱きしめられても、嬉しくなんてない……」



心のない時間なんて、空しいだけ。

無理に引っ張られた左手が、さらに痛みを増している。


「それなら、ただ信じていてくれたらいいんだ。
疑るようなことを聞かずに、堂々としてくれたらそれで……」

「紘生……」

「今は、ただ……」


今はただ、どうしていろというのだろうか。


「聞いてはいけないことなの?」


なぜ、話をしてくれないのだろう。

分かち合いたいという思いは、伝わらないのだろうか。



「君にはわからない」



『私にはわからない』



「わからない?」

「親に恵まれている人には、わからない」


紘生はそういうと、脱いだ服をつかみ、風呂場へ向かってしまった。

シャワーを浴びる水の音が聞こえ、それが途切れることなく続く。



『親に恵まれている人』



それは私のことなのだろうか。

親のことはもう割り切った。考えても仕方のないこと。

今まで、紘生はずっとそう言い続けてきた。

でも、それは本心ではなくて、意地だけのセリフだったのだろうか。


「……バカ!」


私は左手首を押さえながら紘生の部屋を出ると、

シャワーの音に向かって精一杯の言葉をぶつけ、そのまま自分のベッドにもぐり込む。

しばらくして、紘生が浴室から出た音が聞こえてきたけれど、

話しの続きを聞くことは出来ないまま、部屋と心を閉める音だけが耳に届いた。




【55-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
好きなインテリアのテイストはというアンケート。
1位は『シンプル』、2位は『北欧』、3位は『和風』。
心が落ち着くというのが、一番の理由。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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