55 見えないもの 【55-4】

【55-4】

『NORITA』での打ち合わせは、思ったような話しにまとまった。

マンションを意識した、少しコンパクトなサイズのダイニングテーブルと椅子。

数年前に出したデザインを直し、新しいものを置いてもらえることが決まる。



『頼むね、長峰さん』



『ジュエリーボックス』の成功と、『FREE』とのコラボを勝ち取ったという話が、

より一層、営業を助けてくれた。

今日の、出だしは好調。

私は書類をしっかりと握り締め、工藤美貴の事務所へ向かう。



『まあるいテーブル』



あの答えを、菜々ちゃんのご両親は、どう出すのだろう。

エレベーターに乗り、目的の場所で降りると、扉を軽くノックした。





前回と同じ、工藤美貴とマネージャーさん。

事務所が違うからなのかもしれないが、羽田太一の姿はない。


「色々とすみません、長峰さん」

「いえ」

「どうしたのですか、左手」


挨拶をしてくれた工藤美貴はすぐに左手を指摘した。

私は、ソファーにバッグを置きながら、家でつまずいたのだと説明する。


「そうですか。部屋の中って家具につまずいたりしますよね、お大事に」

「すみません」


マネージャーさんが、すぐにアイスコーヒーを出してくれる。

これに口をつける前に、しっかり話を聞かないと。


「それで、あの、菜々ちゃんの希望、どうなりましたか」


ケンカをしている両親のことを、小さな心で心配していた娘の菜々ちゃん。

お姫様のような家具でも、一流の材料を使った家具でもなく、

3人で顔を見て、笑って食事が出来るテーブルを希望した。


「えぇ……正直、ショックでした」


工藤美貴は、私が送ったデザイン画を取り出し、テーブルに置いてくれた。

あらためて菜々ちゃんに、こういうものを作って欲しいのか尋ねたという。


「それで」

「菜々は、これが欲しいと、そういいました。パパとママの顔を見ながら、
みんなでご飯が食べられるテーブルが欲しいと」

「……はい」


中途半端な気持ちでは、女優などやれないだろう。

俳優をしている羽田太一も、もちろんそうなのだろうけれど。


「忙しくて、すれ違っているうちに、他の人たちが回りにいることが当たり前で、
太一と一緒にいる時間が、それほど重要に思えなくなっていました。
向こうも仕事がありますし、周りを囲む人間もいますしね」

「はい」


一歩外に出れば、芸能人としての時間がある。


「マンションをもう一度見直してみたら、菜々の言うとおりでした。
カウンターの食事では、互いの顔を見ることがないし、
バラバラに食べるのにはいいけれど、揃って食べることは出来なくて」


菜々ちゃんとママ。

菜々ちゃんとパパ。

その直線はあるのに、まあるい輪にならない日々。


「太一と話し合って、私、少し仕事を抑えることにしました。
菜々が小学校に入って、色々と落ち着いてくれるまで、
この『まあるいテーブル』を大事にしようって」

「工藤さん」

「長峰さん。予定と変わってしまいますけれど、受けていただけますか」


工藤美貴は、私に菜々ちゃんが希望した、

この『まあるいテーブル』を作ってくれないかと、そう頼んできた。

もちろん、ちゃぶ台ではなく、リビングに置く食事が出来る丸テーブル。


「角は作らなくていいです。3方向から椅子を入れて、互いの顔が常に見えるように、
そういう設計をしてください」

「……はい」

「そのテーブルが出来たら、3人で座って、
もう一度、菜々の家具をどうするのか、決めようと思います」


家族として同じものを見て、考えて決めていく。

工藤美貴はそういうと、アイスコーヒーにストローを入れ、軽くかき混ぜた。


「そのときには、必ず長峰さんにお願いしますから」


菜々ちゃんの『まあるいテーブル』は、

壊れかけた家族を、もう一度呼び止めるきっかけになった。


私は、お待ちしていますと返事をしたけれど……



ベッド、机、タンス、本棚などなど……

収入の予定がずれてしまって、社長や塩野さんがガッカリしないだろうか。



するかもしれないけれど……



仕方ないよね。



菜々ちゃんの思いが届いたことがわかり、私も少し落ち着いた気持ちで、

コーヒーに口をつけることが出来た。




【55-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
好きなインテリアのテイストはというアンケート。
1位は『シンプル』、2位は『北欧』、3位は『和風』。
心が落ち着くというのが、一番の理由。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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