55 見えないもの 【55-5】

【55-5】

「ふぅ……」


『NORITA』の前で幹人に会って、それから部長と打ち合わせをして、

工藤美貴の事務所まで足を運び、話をした。



動き回って、疲れてしまった。



時計を見ると、もうすぐ3時。

今日は、何か他に仕事があったっけ。

私は駅からの階段を登りながら、色々考えた。





幹人にも、そして工藤美貴にも指摘された左手。

仕事も詰まっている状態ではなかったので、駅から5分くらい歩く整形外科に、

そのまま飛び込んだ。しばらくこんな状態だろうけれど、診察さえしてもらえれば、

指摘されたときにも、大丈夫ですと返事が出来る。


「結構腫れてるなぁ、これ」

「……なんだか変なつき方をしたみたいで」

「そうだね」


診察の結果、幸い骨は折れていないけれど、筋を伸ばしてしまったらしく、

強めの包帯で動きを制限することになった。

ある程度は動くけれど、一気に動かせないように、白い包帯がグルグル巻かれていく。

それにしても、右手ではなくてよかった。

右手だったら、鉛筆も持ちにくいし、パソコンのマウスも扱いにくい。

1週間分の湿布をお土産に、事務所へ戻ると、ほぼ仕事が終了する時間になっていた。


「ただいま」

「あ……おかえりなさいって、知花ちゃん。それ」

「うん、仕事先でも指摘されたから、今、病院によってきた。
大丈夫、骨は問題ないから」

「本当ですか?」


優葉ちゃんの明るい声に迎えられて、私は社長の椅子を見る。

塩野さんに社長はどこなのかと聞くと、制作をお願いしている工場へ行っていると、

教えてもらった。


「あ、そうですか」

「5時までには戻るって言っていたけどね。
だいたい予定通りにはならないでしょ、いつも。何、急ぎ?」

「あ、いえ、来週でも大丈夫です」


道場さんは注文主のところへ出かけたようで、伊吹さんは椅子に座っている。

折原さんは……



タバコはないし、バッグも見えない。



『事務所にいるよ』



今日は一日、伊吹さんと仕事だって言っていたから、

屋上でタバコを吸っているのだろうか。


「伊吹さん」

「ん? どうした」


伊吹さんのデスクの上にある書類は、折原さんとの仕事のものではなかった。


「あ、あの……工藤美貴の注文家具なんですけど」

「工藤……あぁ。娘のだったっけ?」

「はい」


もう、二人の打ち合わせは終わったということだろうか。


「何、真っ白にするって?」

「いえ、それが……とりあえず延期になってしまって」

「延期?」


私は、ここへ菜々ちゃんが来た話から、今までのことを伊吹さんに話した。

伊吹さんは出していた書類を片付けながら、聞いてくれる。


「そういうことか」

「はい……予定がずれてしまうようで」

「うん」


仕事のスタートがずれてしまえば、当然、収入が入る時期もずれていく。

私は、強引に進めることが出来なかったと、そう話した。


「まぁ、そうだな。でも、キャンセルになったわけではないから、大丈夫だろう。
これから夏にかけては、俺たちの抱えているこの仕事が動くし……」


俺たち……


「打ち合わせ、終わったんですか」

「8割くらいかな。折原に別の依頼主から電話が入って、
あいつ出て行ってしまったから、今日は終わらなくてね」


『出て行った』と聞いただけなのに、まだ、相手が誰なのかもわからないのに、

高橋さんに会っているのではないかと思ってしまう。


「そうなんですか」


こんなふうに考えること、思うことが、紘生の言うとおり、

疑っていることになるのだろう。



信じる……



そう決めたのだから、慌てたりすることはない。



はずなのだけれど……



結局、退社の時間になっても、紘生は事務所に戻ってこなかった。




【55-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
好きなインテリアのテイストはというアンケート。
1位は『シンプル』、2位は『北欧』、3位は『和風』。
心が落ち着くというのが、一番の理由。

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