56 反乱の後始末 【56-1】

56 反乱の後始末

【56-1】

テーブルに置いた携帯が揺れ、その振動で転寝状態だった私は目を開けた。

相手は紘生。



『今日は戻れないかもしれません。先に寝てください』



戻れない……

メールなのだから、こと細かに説明しろというのは無理なのかもしれないが、

たった一言では、何もわからない。

いったい、何が起きているのだろうか。


どういう状態なのか、電話をして聞いてみようと受話器のボタンを押したが、

すぐに切る。

紘生だって、かけられる状態ならかけてくるはず。

かけたくないのか、かけられないのかわからないけれど、

今、追い立てるようにしても、また、言い合いになりそうな気がした。

いや、言い合うことが嫌なのではないけれど、

もちろん、どういうことなのか、理由は聞くつもりだけれど、

向こうに高橋さんがいるのなら……



その目の前で、変なケンカをしたくない。



意地のようなものが私の心に残っていたようで、

その日は『帰ってきてから話を聞かせて』という、

強がった返信を打つだけにした。





鳥の声、バイクの音。

ベッドの中で、自分に関係のない音を聞き続ける。

ここを出て、音が何もしなければ、玄関に靴がなかったら、

そう思うと、体を起こすことが出来ない。


「ふぅ……」


それでも、いつまでも寝ているわけにはいかなくて、

私はベッドから起き上がると、扉を開ける。

玄関に、紘生の靴は戻っていない。

念のため、部屋の扉を静かに開けて見たが、誰の姿もなかった。



戻らなかった……



携帯を開けて、それからまたメールがないだろうかと確かめるが、何もない。

『戻れない』というあっけないメールを送っているから、

それ以上、説明する必要もないと思われているのだろうか。

包帯を取り、医者に言われた通りシップを貼り直す。

自由になっている手を少し動かしてみるが、やはりちょっとした動きに痛みが走った。

包丁を使うのにも、材料を左手で押さえるのが難しいので、

無理はせずに、今朝はハムエッグを作り、買ってあったレタスを手でちぎる。


「いただきます」


いつもなら聞こえてくる小学生の声も、今朝は聞こえない。

そう、今日は休日。


「あぁ……もう」


二人で向かい合うように買ったテーブルで、一人ここにいるから、

もやもやするのかもしれない。

紘生が帰ってきたら、何を言われようが、どういうことなのか聞きだせばいい。

ただそれだけのこと。

そんな不確定なことで私が、一日不安定になる必要もないわけで、

誰にも縛られない休日なのだから、今日は思い切っておしゃれして、

しばらく忙しくて出かけていない街に行こう。

気分転換に、少しお高めの服を買って、どうせ料理が出来ないのだから、

高価なランチもいいかも。


「うん……」


行こうとしていたけれど、時間がなかった『美術創作展』。

確か、来週までだった気がする。ネットで調べると、また開催中だった。



今日は、掃除も洗濯もしない。

私が、私のために動く日、そう決めた。

紘生のことなんて、気にしないで……



そう思い朝食を済ませて、普段履かないパンプスを出す。

仕事で使うバッグではなく、2年前に優葉ちゃんと奮発して買いに行ったバッグを持ち、

鏡の前に立った。

いつもよりも明るめなルージュに、いつも仕事ではしないイヤリング。

私は支度を整えると、玄関の鍵をかけた。





久しぶりに入ったお店は、すっかり季節感を変えていた。

ウインドーショッピングも楽しかったし、一目で気持ちが動いた服にも会えたし、

展覧会も思ったよりもよかった。

ランチに入った店でも、決してまずいものを出されたわけではないのに……



それなのに……



私の気持ちは、全く晴れていかない。



このもやもやをどうにかしたくて、休日をこうして使っているのに……



もやもやは、私の心に張り付いたまま。



アイスコーヒーのカップ、入っていたストローで、

これ以上かき混ぜても何も変わらないよというくらい、かき混ぜてみる。


「ふぅ……」


結局、このもやもやの原因を、しっかり取りさらなければ、

一掃することなど無理だった。



私は携帯を取り出し、ある番号を呼び出した。




【56-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
二人の出会いとして、一番多いものはやはり『職場の同僚、先輩、後輩』。
合コンなども盛んになっているが、やはりまだまだ『身近な存在から』が多い。
『アニヴェルセル調べ』

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