56 反乱の後始末 【56-3】

【56-3】

「『親に恵まれた』かぁ……。そういえばさ、
知花ちゃんがまだ黒田さんと結婚するかもってとき、
私と折原君、交差点でお母さんにお会いしたじゃない。
ほら、衣装合わせだっけ? あの帰り」

「あ……はい」


そう、まだ幹人と結婚するつもりだった頃。

挨拶をして帰ると言った母に、小菅さんと紘生が会ったことがある。


「確かにその時、折原君言っていたわ。長峰さんのお母さんを見ていると、
長峰さんのまっすぐな性格がわかるって」

「そんなことを……ですか」

「うん。いいお母さんだって、そう言っていた。
彼はご両親に生き方を反対されていたから、
親が子供のために動いてくれているという光景そのものが、新鮮だったのかもね」



親が子供のために……



「私たちからするとさ、子供のために親が動いてくれることなんて、
ごく普通なのだけれど、世の中色々じゃない。
子供のことなんて平気で捨ててしまう親もいるし、
自分のことに必死で、放棄する親もいるし……あ、逆に、かまいすぎる親もいるけれど」


親との関係。

そういえば、高橋さんも家に帰りたくない人だったと、そう言っていた。

やはり、親との関係が、うまくいっていない人なのだろうか。


「あぁ、でも、やっぱり外泊はダメ。それはどんな理由があろうと、絶対にダメ」

「小菅さん」

「知花ちゃんと同棲する関係にありながら、たとえ何があったとしても、
戻ってこないというのは、それ、男として最低です。知花ちゃんを甘く見すぎ」


小菅さんらしく、そう言い切ってくれた。

私にも紘生にも、姉のような人だから、こんなセリフが言えるし、

私も素直に受け取れる。


「そうですよね。外泊はないですよね」

「そうよ。説明して、知花ちゃんを納得させて、
それで初めて、相手のことを心配してあげたらいいでしょう。
順番も、やり方もおかしい。折原め……同棲したら女は自分のものだと、
あいつも思うのか?」


小菅さんは、このままなめられると、後々いいことはないからと、

目の前で腕を組む。


「付き合いを重ねていると、刺激が減っていくのよ。
たまには、ピリッとさせるのも悪くないはず」


刺激……

確かに、同棲してからすっかり生活感の塊になっていて、

ドキドキするようなことも、減っているかもしれない。


「ねぇ、知花ちゃん、私、いいアイデアを思いついた。どう……やってみる?」


小菅さんはそういうと、私に向かって、軽くウインクをした。





「すみません、お休みなのに」

「いえいえ、美恵がこれだけ楽しそうなのは久しぶりですよ」


その日は、小菅さんの家で、夕食をご馳走になることに。

しかし、ただ、ご馳走になるだけでは悪いので、私なりに支度に参加する。


「あぁ……そういうドレッシングの作り方ね」

「はい。市販されているものに、ひとつ加えるだけで、味わい変わりますよ」

「さすが知花ちゃん。お料理上手だし」

「いえいえ、これは偶然に思いついただけで」

「またまた、ご謙遜を」


夕方には教員研修で出かけていたご主人も戻り、

さくらちゃんの相手をしてくれたので、思っていたよりも食事の支度は、早く出来た。

さくらちゃんのことは、お風呂もご主人が入れてくれるようで、

小菅さんは支度を整えながら、声をかけている。


『DOデザイン』で、仕事をしていた小菅さんもとても素敵だったけれど、

こうして家庭に入り、家族を守っている姿も、とてもほほえましい。

やはり、小菅さんは、私にとって憧れの女性であることは変わりない。


「知花ちゃん、今日はこの畳の部屋で眠ってね」

「あ……すみません」


そう、小菅さんの作戦とは、『目には目を』というものだった。

いくら口で説明しようとしても、そううまく行くとは限らない。

外泊されるということが、どれだけ不安になるものなのか、

紘生自身にも感じさせたほうがいいという。

普段、そんなことをしない私だからこそ、効果があると言うけれど。


「本当に、いいんでしょうか」

「いいって?」

「帰れないかもなんて、メール……」


紘生、怒らないだろうか。


「何言っているのよ、知花ちゃん。そんなに左手腫れてしまっているのに、
それにも気付いていないなんて、同居人としてなってないでしょう。
いいの、文句を言ったらね、私が成敗してやるから」

「いや、成敗って……」

「……というのは冗談。まぁ、私も、折原君がその元彼女に
気持ちごと入れ込んでいるとは思わないけれど、
でもさ、知花ちゃんに対しては、もう少し配慮が必要でしょう」


配慮。


「それは結婚しても同じ。相手にとって自分は特別だから許されるなんてことないし、
特別な間柄なのだとしたら、余計に……って、ほら、覚えてる? 
知花ちゃんが黒田さんと食事をしていたとき、『NORITA』との打ち合わせの後、
会ったじゃない、お店で」

「あ……はい」


幹人と食事をしているとき、偶然仕事で接待をしていた小菅さんと折原さんに会った。


「あの時ね、折原君が黒田さんにガンガン言うのを聞きながら、ドキドキしている反面、
こいつ、なかなか男らしいこと言うじゃないのって、
ちょっとだけ感動していた部分もあるのよね」


小菅さんはそういうと、押入れから私のために布団を1組出してくれた。

私はシーツを受け取り、それを自分で広げていく。


「知花ちゃんには才能なんてないから、家に入ればいいと言った黒田さんに、
あなたは色々な出会いの中から、長峰さんを選んだのに、
ずいぶん彼女に対して冷たいって。ねぇ、そう言っていたじゃない。
人は色々な人と出会うけれど、『この人』だって人を、
たった一人だけ選んでさ、そこから先の人生を、一緒に歩むわけだから」



『過去の出会いも全て捨てて……』



そうだった。折原さんが昔、幹人にそう言ってくれた。


「それを言える彼なんだから、この反乱の意味を理解してもらわないとね」


私が選んだのは折原さんで、折原さんが選んだのが私という事実。

何が一番大切で、守らないとならないものなのか。


「さくらが生まれて、『家族』を身近に感じるからなのかな。
あらためて主人との出会いがあって、ここまで来たなって、ふと思うのよ」


お風呂に入っているご主人から声がして、

小菅さんはさくらちゃんを受け取りに向かった。

それからすぐに、ほかほかのさくらちゃんが戻ってくる。


「さくら……気持ちよかったね」


さくらちゃんが気持ちよさそうに手足を動かすのを見ながら、

私は、すぐに食事が出来るように、テーブルの上を整えた。




【56-4】


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二人の出会いとして、一番多いものはやはり『職場の同僚、先輩、後輩』。
合コンなども盛んになっているが、やはりまだまだ『身近な存在から』が多い。
『アニヴェルセル調べ』

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