56 反乱の後始末 【56-4】

【56-4】
夜9時を回った。

さくらちゃんはすっかり夢の中。

ご主人も疲れてしまったのか、リビングのソファーで眠っている。


「知花ちゃん、メール打った?」

「あ……いえ、まだ……」


『帰れないかも』というメール。

昨日、紘生から届いたように、その文面だけ打ち込めばいいと、

小菅さんから言われたけれど……


「どうしたの、ここは気持ちを鬼にして、対等に戦わないと、なめられちゃうわよ」


この1週間、確かに、私は紘生に振り回されっぱなしになっている。

でも……


「折原君にも、切ない思いをさせた方がいいのよ。男にとって女は、
いつも待っているものではないんだって」


待っている……

確かに、そうかもしれないけれど……


指と頭が迷っていると、携帯が揺れだした。

相手は紘生。



『何時に帰るの、どこにいる?』



どこに行くのか、何をするのか、何時に帰るのか、

何も告げていないし、連絡をしていない。

『小菅さんのところにいます』とメールを打てば……


「どうしたの……知花ちゃん」

「すみません」

「ん?」

「小菅さん、帰ります。私には無理です」


私は受話器を開け、すぐに紘生の番号を回した。

呼び出しからすぐに、『もしもし』の声がする。


「もしもし……」

『知花……どこにいるの?』

「うん……」


小菅さんがせっかく、色々と考えてくれたのに。

紘生のメールを見ただけで、向こうで心配しているのだと思うだけで、

『目には目を』の作戦は、無理だと思ってしまった。


「今、小菅さんのところ」

『小菅さんの?』

「そう……さくらちゃんに会いに」


さくらちゃんに会うためというより、

もやもやした気持ちを、小菅さんに聞いてもらおうとした方が大きいけれど。


「食事は?」

『知花が戻るのかどうかわからないからさ、何も食べてない』

「食べていないの?」

『……うん。まぁいいよ。どこにいるのかわかったからさ。
知花は食事したんだろ』

「……うん」

『それならいいよ。俺は適当に済ませるから』


久しぶりの休日。

一緒に食事が出来る日だったのに……

結局、『すぐに帰ります』という言葉を付け足して、受話器を閉じてしまった。

目の前には、小菅さんの顔。


「すみません……」


紘生と対等に話をするため、ここに泊まるとそう言っていたのに。


「……ふぅ」

「すみません、小菅さん」

「ううん、ここで、やり返してやるってならないのが、知花ちゃんなのよね」


私……


「人を傷つけてまで、自分が前に出ようとしないのが、知花ちゃんのいいところ。
折原君も、わかっているはずなんだけどな……」


小菅さんはそう言いながら、しょうがないよねと笑ってくれた。

眠りから覚めたご主人に、勝手で申し訳ないと謝り、小菅さんの家を出る。

駅までは商店街を歩くだけなので、大丈夫だと言ったのに、

知花ちゃんに何かあったら困ると、小菅さんが自転車を押しながら着いてきてくれた。


「内心、ほっとしているわよ、きっと」

「エ……」

「折原君よ。どこに行ったのかって、ドキドキしていたはずだもの。
あぁ、小菅さんのところか……ってね」

「そうでしょうか」

「そうよ、そうに決まっている」


それなら、それで十分だ。

紘生の場所は、あのマンションしかないのだから。


「ケンカしたり、言い合いしたりしながら、
長く付き合える関係になっていくものなのよ」

「はい」

「尖っている部分が互いに削られていって、自然と丸くなるのかな」

「……はい」


駅で小菅さんに見送られ、私は改札を通った。

ケンカをして、互いにギクシャクしていたけれど、心配してもらえただけで、

少しもやもやしていた思いが、抑えられた気がする。

さくらちゃんがとってもかわいかったこと、小菅さんのご主人がとても子煩悩なこと、

戻ったら紘生に話したいことがたくさんあって……


私は電車に揺られながら、何から語ろうかと、あれこれ考えた。




【56-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
二人の出会いとして、一番多いものはやはり『職場の同僚、先輩、後輩』。
合コンなども盛んになっているが、やはりまだまだ『身近な存在から』が多い。
『アニヴェルセル調べ』

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