56 反乱の後始末 【56-5】

【56-5】

『杉ノ上』に到着し、休日をどこかで楽しく過ごした人たちと、ホームに降りる。

このエスカレーターを降りたらすぐに改札だから、

定期をかざすために、右手で持っていた荷物を左手で持たないと。


「知花!」


声がしたので顔を上げると、改札の向こうに紘生が立っていた。


「紘生……」

「荷物、こっちに」

「うん」

私は改札越しに袋を渡し、右手で改札を出た。


「ごめん、ありがとう」

「……うん」


紘生の視線が、私の左手に動く。


「これ……おととい?」


おととい……

私は小さく頷いた。

互いにイライラしていた中で、私はベッドから転がり落ちて、

変な腕のつき方をしてしまった。


「ありがとう、荷物」

「いいよ、俺持つから」

「うん」


駅からの坂道。少しずつ下っていく。

紘生はまた、私より2、3歩前を歩き出す。

迎えに来てくれたけれど、そこからまた黙ってしまった。

怒ってしまったのだろうか。連絡もせずに、出かけたことを。


「小菅さんから、電話があった」

「小菅さんから?」

「知花が無事に、電車に乗りましたということと……」

「うん」

「知花ちゃんがどんな気持ちで、私のところに来ていたのか、
それを考えてあげてくれって、そう……」



小菅さん……



「過去の出会いも、これからの出会いも全て捨てて、
折原君、知花ちゃんを選んだのでしょう……って」



あのセリフ。



「そう、ズバリと言われてしまった」


紘生は話しながらも、ずっと背を向けたまま。

口調は穏やかに思えるけれど、内心、どう感じているのだろう。


「昨日は、遅くなっても戻るつもりだった。結局、戻れなかったけど」

「うん……」

「俺は俺なりに色々とあって、別に非難されることはないと思っていたけど……」



うん……



「でも、知花の不安を取り除けていないのは、俺の責任だ。
小菅さんの言うとおり、選んだのは君なのだから。まずは、君が納得していないと」


そう、納得できる話をしてくれたのなら、信じることが出来る。

以前、紗枝さんのことを聞いたときもそうだった。

紘生が、全てを話してくれていると思えたから、ここまで着いてこられた。


「戻ったら話すから」

「……うん」


そこからもずっと、紘生の背中を見ながら歩いたけれど、

それでも、その背中が冷たく思えてしまうようなことはなくて、

月明かりに出来る影の中にいれば、ずっと守ってもらえるような、そんな気がした。





「ねぇ、食事は?」

「うん……駅前でラーメン食べたよ」


私は冷蔵庫から麦茶を取り出し、2つのグラスに注いだ。

それを自分と紘生の前に置く。


「今まで一人暮らしをしていたから、
仕事から戻るときには必ずコンビニに寄ったりして、食料の調達をしていたのに、
知花と暮らすようになってから、そういうことが完全に頭から消えていて、
気付くと、駅前にどんな店があるのかも、よくわからなくなってた」


紘生は、知っているのは駅前の大きなスーパーだけだねと、笑顔を見せる。


「知花が帰ってくるだろうと思っていたから、昼過ぎまで寝ていたし、
起きたら何か出来ているような気になっていたから、ボーッとしてしまって。
でも、夕方になっても何も連絡ないし、どうしたんだろうかって、急に気になりだして」

「ごめんね……」

「いや、いいんだ。千葉のご両親は九州旅行中だし、あと行くところと考えても、
全然浮かばなくて……そうか、小菅さんのところかって……」


紘生と出会った頃は、互いにこれほど大事な存在になるとは思っていなくて、

だから言いたいことが言えていた気がする。失いたくないと思うようになると、

人は急に弱くなる。



でも……



「この1週間、ずっと振り回されたから……だから、その愚痴を聞いてもらいたくて、
で、小菅さんのところに行ったの」


本心を隠したりしない。

私は、誤魔化したりしない。

不安で仕方がなかったのだと、ちゃんと訴えないと。



この人とはいつも……対等でありたいから。



「そうだね、確かに振り回していたかもしれないな」

「紘生……」

「なんとかしたくてさ……」


紘生はそういうと、切なそうに下を向いてしまった。

なんとかしたいと思ったのは、高橋さんのことだろうか。


「話し、聞くから。何でも話して」


そう、今日はとことん聞くつもり。

紘生がどうして、ここまで私を振り回したのか。


「わかった」


紘生はそう言いながら頷くと、一口麦茶を飲んだ。




【56-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
二人の出会いとして、一番多いものはやはり『職場の同僚、先輩、後輩』。
合コンなども盛んになっているが、やはりまだまだ『身近な存在から』が多い。
『アニヴェルセル調べ』

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