56 反乱の後始末 【56-6】

【56-6】

「高橋さんの依頼を受けて、仕事をする中で、
大学時代には知らなかった彼女の家庭の事情を、知ることになったんだ」

「家庭の事情」

「うん。俺、知花が話をしてくれって言った時、
『親に恵まれている人にはわからない』ってそう言ったよね」

「うん、言った。私には意味がよくわからなかった。自分が親に恵まれているとか、
今まで考えたことがなかったし……」

「だろうね、普通は」


生まれたときからいてくれたのが、今の親だから、

その行動が特別だと、思ったこともなかった。


「前にも話をした通り、俺の親は、デザイナーになる夢を、
認めてくれる存在ではなかったから、いつも話をすることを避けていた。
親というのは、自分の考えを押し付けてくるものだとしか思えなかったし、
今も、そうかもしれない」


折原家の事情、それはもう何度も聞いてきた。

私は、黙って頷いてみる。


「高橋さんも、大学当時、家に戻ることを嫌っている人だった。
その頃は、彼女の事情を深く知ろうとしなかったんだ、自分のことを探られるのも嫌で。
でも、今回仕事をする中で、偶然、色々と知ってしまって……」


紘生が仕事の依頼を受け、大学で打ち合わせをしているとき、

高橋さんのお父さんが顔を見せ、待ち合わせをしていた紘生のことを、

別の男性と間違えたまま、一方的に語ってきたという。


「誰と間違えたの?」

「高橋さんの今の彼」


高橋さんには、お付き合いをして2年になる彼がいた。

しかし、そこに明るい未来の話が進むことなく、恋の炎は消える寸前だったという。


「どうか幸せにしてやってくれと、一方的に言ってくるからさ、俺、
いや、人違いですって説明して……で、彼女の事情を知ることになった」


高橋さんのお父さんという人は、お母さんの再婚相手で、本当の父親ではなく、

彼女が小学校に上がるとき、暮らし始めたのだという。


「お母さんは、再婚したのに、どこか恋愛に自由な人で、仕事先で男性と出会い、
駆け落ちしてしまった」

「駆け落ち? 高橋さんは」

「置いたまま」


1度目は、お父さんが許したものの、さすがに2度目は許すことが出来ず、

籍だけ残ったまま、両親は別居生活に入ってしまった。


「お父さんが言うんだ。本来なら、血のつながりがないのだから、
都は私の家から出て行って、あいつと暮らすべきだったのに、
育ててもらったという気持ちと、自分が仕事の事故で怪我をして、
体の自由が少し奪われてしまったことがあって、出て行けなくなったのだろうって」


高橋さんは、拠点をお父さんのところに置きながら、

そばに住むお母さんのところにも顔を出し、なんとか二人の間をつないでいた。


「彼女が本当に選びたかった企業は、本社が海外にある大手だった。
でも、海外勤務だと、体が大変なお父さんの面倒が見られない。それでその道を諦めた」


家族で一緒に住むという思いは打ち砕かれ、将来の夢も、親のことで諦めた。


「知花にとっては、『親』って、
自分のことを後押ししてくれる温かい存在なのだろうけれど、
俺や高橋さんにとっては、自分のことを邪魔する存在……そんな思いが強いんだ。
今もまた、一人で頼りない生活をしているお母さんが気になって、
九州に転勤する彼に、着いていけないと、彼女は決断してしまったから……
だから、俺はそれは違うと、言い続けて……」


体が少し不自由になったお父さんだったが、リハビリをしてくれる団体の女性と、

この春、再婚を決めた。

だからこそ、お父さんは、高橋さんに思い切って着いていくようにと、

大学まで話しに来てくれた。


「親に負けたらダメだって……そう言い続けた」

「紘生……」

「子供の頃から積み重ねてしまったものだから、いきなりは取り払えない。
何かしようとすると、親が出てきて、それを阻止しようとするような感覚は、
なかなか消えないかもしれない。でも、自ら飛び立つことを諦めたら、
それは親の思うままになっていることだって」


『親』と『子』

私と紘生とは、これだけ思いが違っている。


「俺は……もしかしたらこれで最後だと思って、いつも仕事をしてきた。
あの親が、何か引き起こして、この場所にいられなくなるかもしれないって、
心の中にいつも、不安の雲が貼り付いていたけど、でも知花がいるから……」

「私?」

「あぁ……君がいるから、絶対に屈しないとそう強く思うことが出来るようになった」


一緒に夢を追い、一緒に生きていく人。

『親』ではなく、『親』以上に近い人。


「だから、高橋さんにどうしても、諦めて欲しくなくて。
九州から彼にも来てもらって、東京を離れるなと言っているお母さんにも会って、
説得して……」


誰にでも親はいるけれど、誰にでも同じ親ではない。

『親に恵まれている人にはわからない』と言った紘生の気持ちが、

チクチクと胸を刺す。


「こんなことがあれこれあったんだ。それで……」


相手の事情に入り込み、なんとかしようとしていたために、

私たちの歯車が、少しずつずれてしまった。


「ちゃんと話をすればよかったのだけれど、知花のご両親が、
旅行に出かけることになっただろ。なんだかうらやましいような、
少し悔しいような、そんな気がしてさ。変だろ、こんな感覚。
俺、自分でも変だと思うんだけど……でも……」



悔しい……



「どうして、自分の親は、わかってくれないのだろうって……」



紘生……

やっぱり、そう思っていたんだ。

『認めて欲しいと』そう……



思っていたんだ。




【57-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
二人の出会いとして、一番多いものはやはり『職場の同僚、先輩、後輩』。
合コンなども盛んになっているが、やはりまだまだ『身近な存在から』が多い。
『アニヴェルセル調べ』

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