57 親の背中 【57-1】

57 親の背中

【57-1】

『なぜ、自分の親は……』



紘生と高橋さんの共通点がここにあった。

男女の愛というよりも、境遇からくる同士感のようなものが、

芽生えていたのだろうか。


「それで、高橋さんのお母さんは、九州へ行くことを納得してくれたの?」

「結果的にはね。最初は『親を捨てていくの』とか『親不孝もの』だとか、
自分勝手な言葉を並べていたけど」



親不孝

私が聞いている限りでは、高橋さんが親不孝だとは思えない。

血のつながらないお父さんと、自分勝手なお母さんに挟まれ続けてきた。

それを受け入れ、耐え続けてきた人生。

親の思い通りになっていないというのなら、私だって結構な親不孝になる。


「お母さんの、昔からの飲み仲間の女性が、高橋さんの状況を知っていて、
もういい加減に自由にしてやるべきだと、援護してくれた。
お母さんには、私たちがいるから、心配しないで九州へ行きなさいって」

「そうなんだ……」


『行きなさい』という意見が、周りから出てくることは、

さぞかし力強かっただろう。


「それで?」

「お母さんもやっと認めてくれて、それで今朝、九州へ彼と行ったはず」


もちろん、仕事のこともあるので、一時的にということだけれど、

高橋さんは、新しい自分の道を切り開く覚悟が出来たのだと、紘生はそう言った。


「俺、言ったんだ」

「何を?」

「自分を押さえ込んで、親の言うとおりにしていたときと、
自分の道を開いて生きている今と、親に対する思いは、少しずつ変わってくるし、
温かい目にもなれるって」


温かい目……


「温かい目って、どういうこと?」

「うん。もし、最初からうちの親が、俺の目指す道を認めてくれていたとしたら、
もしかして、もっと甘えた生き方になっていたのかなと思って。
認めてくれていない、いつ邪魔をされるかわからない、
だから最後かもしれないという思いが常にあるから、目の前の仕事に、
今まで、必死になれていたのかなって……」


そう、『最後かもしれない』という表現を、以前も紘生から聞いたことがあった。

あのときには、具合でも悪いのだろうかと心配したけれど、

今、こうして聞いてみると、確かにその思いがここまで強くさせたのかもしれない。


仕事に対する貪欲さ、厳しい姿勢。

何もかも許されていたら、今の紘生には、なっていなかったかもしれない。


「なぁ、知花」

「何?」

「その左手、本当にベッドから落ちたときに痛めたの?」

「エ……そうだけれど。何、どういう意味?」

「いやいや、あの高さしかないのに、どういう落ち方をしたんだろうなと思って」


紘生はそういうと、人の運動神経の悪さを、楽しそうに笑い出した。

私は咄嗟の出来事だったし、逃げようと必死だったからと、弁明する。


「その笑いはひどいと思わない? 
もとはといえば、紘生が無理に人のこと襲うからでしょ!」

「……襲う?」

「そうよ、人の気持ちなんて無視して、無理やり……もう!」


そう。私は被害者なのだから。

笑ってごまかさないで欲しい。


「はいはい、申し訳ないです。俺が未熟者なばかりに、ご迷惑をおかけして」

「そうよ、そうです」


思い切って話してしまえば、こうしてまた笑顔に戻ることが出来る。

心の底では、お互いに信頼しているからこそ、その先を知らなくても済む。



もう大丈夫。



これからどれだけ遅く帰ってきても、

もしかして家に戻れないなんてことがあったとしても……



いや……



「ねぇ、紘生」

「何?」

「遅くなるのは仕方がないにしても、やっぱり、無断で外泊はしないで」


そう……

嫌なことは、話しておかなければ。


「心配するなって言われても、きっとしてしまうから」


そばにいて欲しい人だから……


「うん、気をつけます」

「うん……」


どんなに遅くなっても、ここへ帰ってきて欲しい。

そうすれば、きっと大丈夫。




【57-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『アンティーク』とは、骨董品や古美術品、
または伝統様式の家具のことを示すが、
輸入税関の法律では、製作後100年を経たものとされている。

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