57 親の背中 【57-2】

【57-2】
「あ、そうだ」

「何?」

「旅行中のお母さんたちから、昼間にお土産のダンボールが届いたよ。
ほら、これ」

「あ……うん。開けてみて。九州があれこれ詰まっているからねって、
昨日連絡をくれたの」

「九州が?」


両親から贈られてきたお土産のダンボール。

ガムテープを取り、中を見ると、確かに『明太子』や『さつまあげ』

さらに『カステラ』など、九州あちこちの名産品が、しっかり入っていた。

これだけのものを買い集めて入れたということだろうか。


「すごいな、これ」

「でしょう。お母さんっていつもそうなのよ。どちらが好きなのか聞いてみて、
迷われたりすると、それなら両方どうぞって」

「へぇ……」

「紘生に好き嫌いがないかどうかって、お母さん気にしていた。
だから、何でも食べるわよって、そう言っておいたの。
だからきっとこれだけ入っているのだと思う」

「……俺?」

「そうよ。私のことより、紘生のことばっかり言ってましたから」


私は、これを贈ってくれた両親の思いを感じながら、

中身をひとつずつ取り出し、冷蔵庫の中に入れていく。


「うちの娘を、悲しませないでよってパワーが入っているんだろうな、
この中にそれぞれ」


紘生はそういうと、『明太子チーズ』を取り出し、食べてもいいかと聞いてくる。


「そんな重苦しく考えなくても大丈夫よ。私が楽しく毎日を過ごしていれば、
それで十分なのだから」

「うん……」


『明太子チーズ』に合うお酒。

私は、以前いただいた日本酒の小瓶を、1本だけ開けることにした。





一昨日より昨日、そして今日。

左手の痛みは、気持ちと比例しているのか、和らいできた。


「知花、もう出るよ」

「あ、ちょっと待って」


いつもの時間に家を出て、一緒に駅まで歩く。

今日はしっかりと隣の位置。


「伊吹さんと、午前中に仕事の詰めを終わらせないとな」

「出来そう?」

「出来ないと困るでしょう」

「そうだけど」


休日が終わって、いつもの平日。

電車の中も混雑しているけれど、私の左手の方に負荷がかからないよう、

紘生が前に立ち、しっかりとガードしてくれる。

それだけで安心できる。


「知花は『NORITA』のダイニングに取りかかるの?」

「うん……ずいぶん待ってもらっているから、少しピッチを上げて」

「そっか。いいなぁ……」

「いい? どうして」

「ここのところ、規模の大きい仕事が多くてさ、
まぁ、高橋さんの和ダンスはちょっと異色だったけれど。
個人の一品もののような仕事を、もっとしてみたいなぁと」


小菅さんがいなくなり、伊吹さんのパートナーは紘生に変わった。

以前なら社長がこなしていたデザインの仕事も、実力を買われているからだろう、

紘生が入ることが多い。


「社長、ほとんど営業だものね」

「うん……」


『エアリアルリゾート』、そして『ナビナス女子大』。

さらに『エバハウス』。紘生は確かに、大きな仕事が多い。


「仕事の合間に、ちょこちょこデザイン画を描くのも、
結構、ストレス解消になると思うけど」

「合間?」

「うん」


私が、メインの仕事など出来ない頃、勇気がなくて発表できないデザインを、

それでも休み時間などに、よくスケッチしていた。

空想の中で組み立てていく作業も、結構楽しかった気がする。


「ふーん……」


いいアイデアだと思ってくれたのだろうか。紘生は軽く頷いてくれる。


「空想はいくらしても怒られないし、自由でしょ」

「まぁ、そうだよね」


将来、自分が結婚して家を建てたらとか、そう、色々なことを考え、

デザインを描いていたことを思い出した。


「つまり、知花にはそんなスケッチブックが存在するわけだ」


紘生はそういうと、私の耳元に近付き、『宝物はどこにあるの』と問いかけてくる。


「あ……もうない。それは捨ててしまった」


失敗した。瞬間的にそう思ったけれど、もう遅い。


「ウソだな」

「ウソじゃない」

「いや、知花が一生懸命に描いたデザイン画を捨てるとは思えないからね。
ねぇ、どこ? 部屋? それとも事務所?」


余計なことを言ってしまったと、心からそう思った。

私の、未熟だった時代、いや、今も未熟だけれど、さらに全くできていなかった頃の、

誰にも見せられないくらい、低いレベルで描いたもの。

美術が得意な高校生なら、おそらく描けるのではないかと思うくらい。


「本当にないの。私だって捨てることくらいあります」

「いや……」


紘生の目。

ダメ、見ていると、見抜かれてしまう。


「……事務所か」


私は思わず顔をあわせてしまい、何事もなかったつもりで目をそらす。


「素直だねぇ……知花ちゃんは」

「……知らない」


あのスケッチブックをどこにしまっているのか思い出そうと、

そこからは電車の外を見るふりをし続けた。




【57-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『アンティーク』とは、骨董品や古美術品、
または伝統様式の家具のことを示すが、
輸入税関の法律では、製作後100年を経たものとされている。

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