57 親の背中 【57-3】

【57-3】

「おはよう」

「あ、おはようございます」


いつもの朝、いつもの顔ぶれ。

優葉ちゃんは、コーヒーサーバーの準備を進めてくれていて、

塩野さんは、新しいドナルドの付箋を取り出し、楽しそうに書類に貼っている。

伊吹さんはバッグからタバコを取り出すと、まずはと事務所を出た。

その動きに、道場さんも着いていこうとする。


「折原さん、行きます?」

「あ……うん。先にどうぞ」


いつもなら一緒に上へ行くのに……

タバコ組の中で、紘生だけが残った。


「どうしたんですか、いきなり仕事?」

「いやいや、ちょっとした資料を探そうかと」



資料……いや、絶対に違う。

『私のスケッチブック』を探そうとしているはず。

これはなんとしても先に思い出し、見つけなければ。

私は荷物を置きながら、事務所の中を見渡し、

しまい込んだ記憶を、必死に呼び戻した。



先に見つけて、見られないようにしなくちゃ。

どこだろう。確か、オレンジ色のスケッチブックだったはず。

あまり大きいと目立つから、A4サイズの……


「知花ちゃん、何か探し物ですか?」

「ん?」


何も知らない優葉ちゃんにそう言われ、

私は、何やらいらなくなった用紙が入っているので捨てようと思ったと、

その場をごまかした。





社長が顔を出し、『DOデザイン』が動き出した。

伊吹さんが屋上から戻り、紘生を呼ぶと、仕事が始まる。

私のデスクには、『NORITA』から依頼された、

ダイニングテーブルセットのデザイン画。

来年の春に向かって、仕上げていくつもり。

デスクの一番下の引き出しを開け、素材表が入ったファイルを取り出す。

そういえば、ここにいくつかのファイルがあるけれど、

でも、オレンジ色のスケッチブックは見当たらない。



引越しの時にも、見ていないような気がするから、

マンションではないと思うけど。



だとすると……どこに残しているのだろう。



「あぁ……そうか」

「だろ、ここは合わないぞ、サイズが」


伊吹さんと紘生の打ち合わせ。

最後の最後、なかなかピッタリとこないらしい。

嘆きやうなりだけが、耳に届く。


「あぁ、難しいな」

「こだわらなければな、これでOKだろうけれど、お前も納得いかないだろ」

「いかないですね、流れが止まりますし」

「だよな……」


紘生は椅子の背もたれに寄りかかり、両手を頭の後ろに置く。

あのポーズをするときは、詰まってしまったときだろう。


「なんかあれですよね。気持ちを切りかえるのに、
全く全然関係のないデザイン画とか、見たくないですか」

「関係ないデザイン?」

「はい。こう……仕事とは関係のない、自由な発想のもので……
なんでもいいんですけどね、殴り書きのようなものでも」



『殴り書き』?



紘生、わざとらしい……



「折原、お前何を言っているんだ」

「いえ、すみません。頭の中がこう、煮詰まっているので」

「関係のないデザインか」

「何かないですかね、こう、ボツになったものとか、あと……」



あと……



「未発表のものとか?」


どうしよう。早く探さないと。


「あ、そういえば」


伊吹さんは立ち上がると、そのまま事務所の一番奥へと進んだ。

そこにはお客様が来た時に通すソファーがあり……



「あ!」



思い出した。一番奥にある過去資料。

いつも私が取り出しを担当していたので、

その一番隅に、スケッチブックを挟んでおいた。


「あ、そうか……えっと」


そう、あの扉は、暗号がないと開かない。

伊吹さんは自分で開けたことがないから、わからないはず。


「……長峰」

「はい」

「お前、あの鍵の番号、知ってるよな」

「はい」


そう、冷静に思い出そう。

あの管理を任されていたのは私なのだから。




【57-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『アンティーク』とは、骨董品や古美術品、
または伝統様式の家具のことを示すが、
輸入税関の法律では、製作後100年を経たものとされている。

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