58 家族の形 【58-1】

58 家族の形

【58-1】

あの日、鉛筆で下書きしていたデザインは、

紘生がお父さんのために作る机と椅子だった。


「私が熱をだした日。紘生、部屋で描いていたでしょ。その頃から考えていたの?」


あれからずっと、このデザインに取り組んでいたのだろうか。


「いや、あの時はただ、思いつくままに描いていただけだよ。
仕事ではないものも、少し時間があれば、描くことが好きだしね」


そういえば、紘生が『DOデザイン』に来た日も、

確かに軽いデザイン画を描いていた。

私は、頭に浮かんだものをすぐに形に出来る彼の才能に、

驚きと嫉妬を重ねたことを思い出す。


「真剣に考えるようになったのは、久我がピンチになったとき、
結局助けてやれなかったからなんだ。戸波さんの工場に出かけて、
木のぬくもりに癒されているとき、そう……自分はこうするべきだって、
そう思えてきて」



『こうするべき』



「それじゃ、紘生が勝手に作るって事? 頼まれたわけではなくて」

「頼まれるわけないだろう。俺の仕事を、あの人は認めていないのだから」


そうだった。紘生はデザインの勉強をしていたことを知られ、

会社と家を飛び出してから、一度も会っていないとそう言っていた。



自分を認めず、背を向けたままの父親のために、作ろうとしている家具。



「長い間、あの人の背中だけは見てきたからね。だいたいのサイズはわかる。
だから、これは勝手に作ろうと決めたんだ。
でも、こんなことで許されたいとかではないよ。これが俺の選んだ道だと、
そう宣言したくて」


家具デザイナーとして、生きていく決意。


「始めは、折原の名前を名乗らないことで、戦っているつもりになっていた。
でも、それは現実から逃げているだけで、何も動かなかった。
母や紗枝の言うように、家に戻って、直接言いあいをすることも出来るけれど、
互いに責め立てるだけになるから、それでは本質が伝わらない気がして」

「うん……」


『三村紘生』

『DOデザイン』に入社したとき、紘生はそう名乗っていた。

フリーライターの千葉さんに、過去のことを探られることを、とても嫌がって。


「仕事には、とにかく真剣な人だからさ。俺も真剣に作ろうと決めた。
でも、受け取るかどうかもわからないけどね、もしかしたら送り返されるかもしれない。
でも、けじめが必要だと思うから。自分の働いた金で、これを作って、あの人に贈りたい」


お父さんのあとは追えないけれど、それでもしっかり歩むべき道はある。

『ひとりの大人』として、対等に勝負するために作るもの……


「それで、知花のこのデザイン、すごくいいところがあるから、
許してもらえるのなら、使いたいな……と」


私のデザイン画。


「私のなんて、無理に入れなくてもいいって」

「無理じゃないんだ。本当にいいなと思うところがあるから」


紘生はもう一度スケッチブックを広げると、ポイントになる箇所を、

いくつか指差してくれた。思いつくままに描いた絵だけれど、

これにも私の思いが入っている。


「俺の考えと、知花の考えを合わせたら、いいものになると思うし」


あの頃から、紘生はずっとこのことを考えていた。

自分の仕事を認識してもらうために、どうすればいいのか、考えに考えて……


「『駅ビル』の頃から……ずっと、考えていたんだ」

「……うん」


机の高さ、椅子の幅、お父さんと離れて何年も経っている。

それでも……

紘生はきっと、お父さんを記憶しているに違いない。



親と子……

それが、切れない縁なのだろうか。



「それなら、何でも使って。どこをどう使ってくれても構わないから」

「……うん」


紘生なりの戦い方。

それならば私も、なんとか力になりたい。

スケッチブックと1枚のデザイン画。

その日はそれを互いに持ちながら、家に向かった。





『九州旅行』を終え、実家に戻ってきた母から電話があったのは、

それから3日後だった。

知己が洗剤の量を入れすぎて、タオルにとけ残りがあったこと、

掃除機に自分の靴下を詰まらせて、そのままにしていたことなど、

旅行以外の話がてんこ盛りになる。


「うん……」

『まぁ、旅行に行っている間はいいけれど、帰ってきたら女は大変よ。
洗濯もあるし、掃除もあるし』

「そうだよね」


私はお土産のお礼を伝え、それでも楽しそうに話している母の声に一安心する。


「お母さん、ありがとうね」


母の声を聴いていたら、そう、言葉が出てしまった。

今まで、親のことをとりわけ考えたことなどなかったけれど、

私が当たり前に受け取っていた日々は、当たり前ではなかった気がした。


『何? 何を言っているのよ、知花。お礼を言うのならお母さんたちの方でしょう』


母は、旅行費用も出してもらったのだから、

知己の失敗くらい受け止めてやらないとねと笑いながら、

とても有意義な旅だったと、あらためてお礼を言ってくれる。


「……そうだね。知己もお金出したから、まぁ、許してやってよ」


それからもしばらく会話は続き、気付くと、時計は次の時刻をさしていた。




【58-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
男性の料理教室なども盛んになっているが、
アンケートを取ると、実は、一番やりたくない家事
(お金を出してもいいから、人に頼みたい)は、『料理』という結果。

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コメント

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ふわっと

拍手コメントさん、こんばんは

>お話しが色々と膨らんで-----才能が羨ましいです。

いえいえ、才能なんてありません。
あるのは、創作大好きという、ふわっとした思いだけです。
でも、こうしてみなさんが喜んでくれるのは、とっても嬉しいので、
またせっせと書き進めちゃいます(笑)
最後まで、ぜひぜひ、よろしくお願いします。