58 家族の形 【58-6】

【58-6】

紘生の計画を知り、材料の調達には戸波さんが動いてくれた。

材質、強度など考えて、木材を決めたのはそれから1週間後のことだった。


「よし、それじゃ、ここへ回しておけばいいわけだ」

「よろしくお願いします」


仕事がある日に、取り組むわけにはいかないので、休日に揃って挨拶に向かう。

戸波さんの工場。何度来ても、香り、音、目に入るもの、全てが魅力的に見える。


「悪いな、俺一人だからろくなものが出せなくて」

「いいんですよ。材料のことで動いてもらえるだけで十分です」


戸波さんの奥さんは、出産を控えて、ご実家に戻っていた。

初めてのお子さんなので、待っている戸波さんも緊張するらしい。


「町の中ならさ、いいんだけど。ここは少し山奥だし、
俺がいないときに産気づかれても困るし。最初から実家の近くで産むように、
してもらっていたからね」


子供はすでに男の子だとわかっているのだと、戸波さんは嬉しそうに語った。

普通のお茶を飲んでいるのに、空気がいいからか、数倍美味しく感じる。


「お前が、こんなことをしようと思うようになるとはな」

「驚きですか」

「あぁ、驚きだね。折原は捨てて、三村を名乗りますって連絡をくれてから、
何年だ?」

「……2年半くらいですかね」

「だろ」


木材を並べた端に座り、戸波さんもお茶を飲む。


「長峰さんに感謝しろよ。このわがままな男を見捨てずに、
着いてきてくれているんだからさ」


戸波さんは、そう言いながら、私に『なぁ』と声をかけてくれた。

そうですねとも言えず、笑うしかない。


「偏屈具合からすれば、戸波さんだって相当ですよ。
人のことばかり言わないでください」

「ん? まぁ、それはわかってるよ。俺は常にあいつに感謝しているからね。
いいだんな様ぶりだぞ」


戸波さんはそういうと、工場の奥にある古い桐のタンスに触れた。

紘生も興味深そうに、その引き出しを触りだす。

親になろうかというくらい大人なのに、二人とも『木』が好きだという思いは、

子供のように純粋に持っている。


「知花……」

「何?」


紘生に呼ばれた私も、大好きな『木』に触れるため、湯飲みを台に置き、

タンスの前に進んだ。





「どれくらいで出来るのかな」

「まぁ、急がずにとお願いしているから、どうだろうね」

「うん……」


戸波さんのところからの帰り道。

紘生の口数は、いつもより少ない気がした。

紙に描いていた段階から、デザインはすでに決定し、それに合った木を選び、

本物の形になるため、動き出している。

『大丈夫だよ』という言葉は、出せなかった。

精一杯作り上げたものを、受け取ってもらえるのかどうか、私には全くわからない。

無責任に『大丈夫』だなんて、今は言えなくて……

黙ったままの紘生に、かけてあげる言葉が見つからないまま、

見える景色は、だんだんと都会に近付いていた。





「どうでしょうか」

「うーん……」


社長に、秋に向けたダイニングテーブルのアイデアを提出する。

そう、羽田太一と工藤美貴の娘、菜々ちゃんからのヒントで、

『丸』を意識したテーブルを考えた。


「普段はこれだけのスペースなんですけど、台がそれぞれ右と左に回転します。
その分、スペースが広がります」

「おぉ……」


日本の家は狭い。

空間は使いたいときに、有効に使えるようにしなければ、もったいない。


「……ダメ……でしょうか」


社長の言葉が何もない。

やはり、少し冒険しすぎただろうか。もっとオーソドックスにしたほうが……


「長峰」

「はい」

「お前、成長したな」

「……社長」


『成長した』という一言が、私の心にじわりとしみていく。


「伊吹や小菅の後ろで、小さく頷くことしかしなかったお前が、
こんなふうにものを見られるようになったなんて……」

「社長……」

「よし、これでいってみよう。『DOデザイン』の新作は、長峰知花のデザインだ」



『長峰知花のデザイン』



「ありがとうございます」


心がとても広く、みんなをまとめてくれる社長がいるからこそ、

私は、今までやってこれたのだと、頭を下げながら、あらためてそう思った。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
男性の料理教室なども盛んになっているが、
アンケートを取ると、実は、一番やりたくない家事
(お金を出してもいいから、人に頼みたい)は、『料理』という結果。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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