59 いつもの場所 【59-3】

【59-3】
「それじゃ、お先に失礼します」

「お疲れ」


その日は仕事を定時で終えて、私は千葉の実家に向かうことにした。

扉を開けて、エレベーターの前に立つ。


「知花……」


声に振り返ると、紘生だった。


「どうしたの?」

「いや、たいしたことじゃないんだ、伯母さんによろしく伝えてって」

「うん……」

「じゃ……」


私は火の元と戸締りだけはしっかりしてねと頼み、開いたエレベーターに乗る。

紘生はわかっていると頷き、軽く手をあげてくれた。





「ただいま」

「知花……」

「伯母さん、いらっしゃい」

「おじゃましてますよ」


和歌山の伯母は、すでに長峰家に到着し、母と食事の支度を進めていた。

私の分もあるのかと聞くと、用意してあるわよと、返事がくる。


「あぁ……いい匂い」

「でしょう」


仕事で遅くなる知己をのぞいたメンバーで、それからすぐに食事となった。

伯父さんが近所のカラオケ大会で賞をもらい、その商品が空気清浄機だったこと、

従兄弟の亜紀ちゃんに彼氏が出来たようで、近頃帰りが遅いという話しなど、

伯母の口からは、終わりがないくらい色々な話が飛び出していく。

父はマイペースに飲み、ソファーで横になってしまったため、

テーブルには女3人が残り、適当なつまみとお酒を並べていく。


「あぁ……なんだか酔ってしまったかもしれない。話が楽しくて止まらないもん」

「いいじゃないの、義姉さん。今日は無礼講。何でもありよ」


義理の姉と妹だけれど、本当に伯母と母は仲がいい。

母は、いつもは男二人しかいないので、話をしても聞いてくれないし、

何か話題がないのかと振っても、二人とも首を傾げるだけでつまらないと、

愚痴をこぼしだす。


「いやぁ、いいよ真子さんは。子供たちに旅行をプレゼントされたんでしょ。
うらやましいったら」

「あ……そうだった。そうそう、それはね」


母は、私に見せたいと、旅行のアルバムを持ち出した。

中には確かに父と撮った写真が、何枚も収まっている。


「久しぶりにお父さんと写真なんか撮っちゃったわ。子供が生まれてからは、
どちらかがシャッターを押すことが多くて。一緒に撮るってことがなかったしね」

「あぁ、そういうものだよね」


私と知己が両親にプレゼントした、九州の旅行。

こうして写真を見ると、本当によかったと思えてくる。


「でも義姉さんはいいじゃないの。もうすぐ生まれてくるし」

「……生まれって、エ! そうなの?」

「そうなのよ、私、おばあちゃんになるのよ、知花」


昨年の夏に結婚した賢哉君ご夫婦が、おめでたになったのだと、

伯母は嬉しそうに教えてくれた。まだ、安定期にもなっていないので、

あまり騒がないようにしようと思うのだけれどと言いながらも、

口元がムズムズするのか、表情は笑ったままだ。


「大丈夫よ、真子さん。知花だって……ねぇ。ほら、あの……折原さん。
いい人だったもんね。うちに泊まったとき……あ!」


伯母は、口を滑らせてしまったと、慌てて手を前に置いたが、

出て行った言葉は元に戻らずに、テーブルの上で弾け飛んだ。


「泊まった? 知花、折原さんと迫田家に行ったの?」

「あぁ……ごめん、知花」


伯母さんが慌てれば慌てるほど、それが事実だと語ってしまう。

まぁ、今更ごまかす必要もない気がするので……


「うん……」

「いつよ」

「賢哉君の結婚式の後、折原さんと会って、で……」

「結婚式の後? やだ、去年の夏?」

「うん……和歌山の商工会議所に、
折原さんの亡くなった恩師の作品があることがわかって、
どうしても二人で見ようって、それで来てもらったのよ。そうしたら……」

「そう、そうしたらね、うちの倉庫にあった作品も、その先生のものだったらしくてさ。
急遽見せてくれって。二人は帰りますって言ったんだよ。でも、ほら、ねぇ……
おじいちゃんが泊まれって言って」

「お父さんが?」

「そうそう。知花のどこが好きなのかって、ねぇ、おじいちゃんったらさぁ……」


伯母は完全に酔いが回っているのか、笑いながらその日のことを語り出す。


「知花は和歌山の木々のように、まっすぐだから好きだって……ねぇ、知花。
そうだったよね、そう言ったよね、知花」


呆気にとられている母と、その日のことを思い出し、一人楽しそうな伯母と、

どちらの思いに近付けばいいのかわからずに、目だけを動かす私。


「……お母さん、何も知らなかった」

「あぁ、ごめんよ真子さん。言わないよって約束していたからさぁ……って、
おばちゃん、破ってしまったよ、知花」

「いいよ、もう」


そう、『同棲』までしているのだから、今更……


「おじいちゃんに次の日、山へ入れてもらったの」

「山へ?」

「そう。まっすぐに伸びている木々を見ながら、
紘生、うらやましいってそう言ってくれた」



『うらやましい……』



あの日のことは、今もハッキリ覚えている。

紘生の中で、家族に反対され続けていることが、本当はとても辛いのだということが、

私にもよくわかった瞬間だったから。




【59-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
タンスや棚のような『箱物家具』、椅子やテーブルのように
脚がついている『脚物家具』、さらにラックなどの『小物家具』があり、
家具はおおよそこの3つに大別出来ます。

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