59 いつもの場所 【59-6】

【59-6】

カレンダーの日。

何事もなければ、今日は、紘生が注文した家具が完成する日。


「あぁ……そういうことか」

「はい」


私は朝から『NORITA』へ行き、最終的な組み合わせを報告した。

紘生が言ったように、シミュレーションをすると、派手なことが好きな部長さんも、

木目の統一に納得してくれ、少し大きめのものと、それより一回り小さなものと、

2種類手がけることになる。


「わかりました、それではこれで」

「ありがとうございます」


書類にしっかりと印をもらい、私は『NORITA』を出る。

携帯に印が見えたので、メールを開いてみると、紘生からだった。



『工場から連絡があったので、確認に向かいます』



……完成した。



私は時間を確認する。



『そのままで』



そう、私はそのままでいればいい。

紘生が嬉しかったり、悲しかったりするときにも、同じ場所にいればいい。



『すぐに向かいます』



そう返信をすると、少し早足で駅を目指した。





私が工場に到着すると、すでに紘生が完成品を前に、色々と説明を聞いていた。

『世界にたった一つ』しかない、注文品。

これだけ贅沢な机と椅子を、私は今まで見たことがない。

いい材料を使ったとか、そういうことではなくて……



一人の人間が、一人の人間に、『人生』をかけて挑んだもの。



そう思うと、自然と両手に汗がにじむ。

不安な心が表れないように、しっかりと握り締めた。



「いいですね」

「ありがとうございます」


引き出しを引く部分、四隅に少しだけ丸みをつけたところ。

4本の脚の飾りに、動かせるチェスト風の棚。

落ち着いた配色に、どっしりとした背もたれ部分。

以前、駅ビルに入ったお店のオープンで、紘生のお父さんを見かけた。

この机と椅子を……



紘生の仕事を……



認めてくれるだろうか。



私の左手を机の上に軽く置く。



「それでは、お願いしていた住所に、配送してください」

「はい。で……」

「もし、送り主の名前を見て、受け取りを拒否された場合には、申し訳ないですが……」

「はい。打ち合わせをさせていただいたとおり、一度うちの方で保管するということで」

「はい」



受け取り拒否をされたら……



「色々とご面倒をかけますが、よろしくお願いします」


紘生が頭を下げるのと同時に、私も頭を下げた。

いつもうちの商品を手がけてくれるみなさんが、今回も本当にいいものを作ってくれた。

あとは……



ただ、願うだけ。



事務所に戻る電車の中で、紘生はあまり話をしなかった。

いつもの流れで行けば、あさってには『折原製薬』へ届くだろう。

電車は橋を渡り、大きなグラウンドを横に見ながら、地下へ入っていく。

景色は見えなくなり、窓ガラスには、少しうつむき加減の紘生と、

それを見ている私の顔が映った。


「何作ろうかな、今日」

「ん?」

「昨日、お肉食べたでしょ。帰りにスーパー寄って、魚見ようかな。
ほら、日本酒、まだ開けていないのあるし……」

「うん」


たとえ送り返されても、私たちは変わらない。

こうして二人寄り添って、これからも『デザイン』に向き合っていく。


「知花」

「何?」

「今日はさ、何か食べに行かないか」

「外で食事? どうして?」

「ずっと向き合っていたものが、やっと手を離れていったこともあるし、
ここのところ、伊吹さんからの手直しで、家でもデザイン画と向き合っていたからさ、
ちょっと気分転換」


手を離れたというのは、机と椅子のことだろうか。

何も言わず、普段どおりを貫いていたように見えた紘生にも、

やはり、気持ちの揺れはあったのだと、そう思う。


「わかった。それならそうしよう」


事務所がある駅につく頃には、紘生の顔に少しだけ笑みが戻っていて、

私は、どんなものを食べに行こうか話をしながら、地上へ出る階段を登った。




【60-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
タンスや棚のような『箱物家具』、椅子やテーブルのように
脚がついている『脚物家具』、さらにラックなどの『小物家具』があり、
家具はおおよそこの3つに大別出来ます。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント