60 覚悟の笑顔 【60-1】

60 覚悟の笑顔

【60-1】
『羽田空港』にも、国際線が到着するようになり、

以前よりも本数が増えたからか、夜の景色は、またより一層華やかになった。

先日、和歌山の伯母が東京に来てくれたときに、母と二人で見ていた景色とは、

海を挟んでいるからだろうか、全然別物に思えてくる。


「こんな公園、あったのね」

「ここは人工の公園らしいよ。ようは埋め立てて出来たってことだけど。
でも、休みになるとバーベキューだとか、ほら、飛行機を見る人がたくさんいて、
結構賑わうらしい」


紘生が、お父さんに『世界でたった一つ』のものを贈った、その日の夜。

私たちは、久しぶりに外で食事をし、そのお店から10分ほど歩いたこの場所で、

飛び立つ飛行機を眺めている。

今、前を通過していく飛行機は、どこに向かっているのだろうか。


「あれだけ降りたり飛んだりしていて、よくぶつからないわよね」

「そりゃ、整理する人がいるからだよ。いなければ大混乱だ」

「そうよね」


私は私なりに、明るくしようと頑張った。

紘生の思いが届くか届かないか、それはあと数日でハッキリする。

たとえ、受け入れられずに送り返されてしまうことになっても、

私はこれからも変わらずに、こうして二人で生きていこうと決めていて……



でも……心の底では、紘生が頑張ってきたことを知っているだけに、

どうか認めて欲しいと、強く、強く願っているけれど。



「知花」

「何?」

「仕事が一段落して、休みが取れたら、イタリアに行かないか」

「イタリア?」

「うん……」

「どうしたの急に」

「いや……君に見て欲しいものがあって」



私に見て欲しいもの。



「俺が、どんなふうに向こうで過ごしていたのか、感じて欲しくてさ」


紘生の過去。

『折原製薬』を飛び出し、デザインの仕事をするために、一人ヨーロッパで戦った日々。


「新婚旅行……みたいなものかな」



新婚旅行……



「『折原製薬』と両親に、自分なりの決着をつけたかったから。
君に話すのは、その後でと決めていた」

「……紘生」

「知花がいるから、たとえこれから何が起こっても、俺には知花がいるからって、
そう思えたからこそ、今回のような行動が取れた。そっぽを向かず、正々堂々と、
俺なりに向き合ったつもり」


偽名を使うようなこともなく、口で文句を言うわけでもなく、

自分の信じる道で、自分を精一杯表現した、紘生の戦い方。


「こんなふうに一緒に住むこと、ご両親に話すのは、大変だったはずなのに、
本当に感謝している」


私はただ首を横に振った。

大変だなんて、思ったことはない。私がそうしたいと思ったから、

だから、親にも隠すことなく言えた。



『紘生と一緒にいたい……と』



「これからも、俺と一緒の夢を追って、生きてください」



『一緒の夢』

木のぬくもりが大好きで、それを家具という形で表現していくこと。



紘生はショルダーバックの中から、小さなケースを出し、私の前で開けてくれる。


「……これ、いつ用意したの」

「それはそれなりにやりますよ、俺だって」


シンプルに輝くシルバーのリング。

ケースの真ん中に座り、こちらに輝きを送っている。


「紘生がものすごく普通のことをしていると、思っているだろう」

「エ……だって」

「すでにフライングして一緒に住んでいるからこそ、
こういうことはしっかりやらないとと思ってね。
あとからなし崩しにされたって、文句を言われるぞと、戸波さんに言われた」

「戸波さんに?」

「そうそう」


紘生は笑いながら、私の指に、リングを通してくれる。

途中まで進み、その動きを止めた。

どうしたのだろう、私の指、太くなったのかな。


「知花……」

「何?」

「返事は?」

「あ……」


そうだった。私、また『はい』と返事をしていない。

途中になった指輪が抜け落ちないように、自分でしっかりと奥へと入れて、

そのまま紘生に抱きついた。


「OKするに、決まってるでしょ」


世界中の男性に出会ったわけではないから、100%そうだとは言い切れないけれど、

紘生ほど、私を笑顔にもさせ、嫉妬もさせ、

また……心を温めてくれる人はいないはずだから。



一緒にいると、自分自身が成長できると思える人に、

私は会うことが出来た。



「ありがとう……」

「どうして、ありがとうなの」

「……わからない、でも、そう思ったの」


『COLOR』に置いたチェスト。

それが私たちを引き寄せた。

自分の意見をハッキリ言える紘生と、すぐに弱気の虫を出す私。

全く正反対の二人だけれど、でも、互いに刺激しあうと、別の色合いが生まれてくる。



そう……



『Dressing』のように。



今日のキスの感覚は、一生忘れないだろう。

耳に残る飛行機の飛び立つ音とともに……



一生、忘れない……




【60-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
婚約指輪の平均は20~40万。結婚指輪の平均は10~20万。
やはり毎日身につける結婚指輪はデザインが重視され、
飽きのこないものという意識が強い。

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