60 覚悟の笑顔 【60-2】

【60-2】

夢のようなプロポーズの日が終わり、またいつもの日々が戻った。

紘生からもらった指輪は、とりあえずケースに戻し、大切にしまう。



『ご両親に挨拶をしないと……』



会社のみんなにも、それが終わってから気付いてもらうように……



指輪なんてして会社へ行ったら、優葉ちゃんが大きな声で騒ぐにきまっている。

報告するのなら、私からさせてもらいたい。

一生に一度……



いや、私、結婚宣言するの2回目だけれど。



でも、自分の口から伝えたい。



だから今はまだ、内緒。





「はい、もしもし『DOデザイン』でございます」


『DOデザイン』、今更だけれど、社員は社長を含め現在7名が働いている。

紘生が、お父さんのために作った机と椅子。

発送されてから今日で4日目。

もう、向こうに届いているはずだけれど、どうだろうか。

素直に受け取ってくれずに『返品』ということになるのなら、

制作をしてくれた工場に品物が戻り、紘生宛に連絡が入るはず。



そう、だから、電話はきっと、紘生宛なのだけれど。

気持ちがそこにあるから、音が鳴ると、つい手が伸びてしまって。

この電話は誰宛なのだろうと、毎回やきもきするくらいなら、

全ての電話をチェックしておきたくて……





「知花ちゃん」

「何?」

「何か待っているんですか?」

「あ、そうそう、長峰さん早いですよね、ここのところ、電話を取るの」


いつものメンバーといつもの『COLOR』。

そしていつものランチメニュー。


「そうかなぁ。お客様かもしれないと思うと、手が伸びるのよ。
それは、仕事に前向きってことでしょ」


ここに就職してもう8年目、今までそれほど前向きに電話を取ったことなどない私。

なんだかおかしいですねと言いたげな、優葉ちゃんのゆるんだ顔が目の前にある。


「何かあるんでしょうね、きっと。まぁ、しつこくは聞きませんけど」


語尾を伸ばして言うあたり、確かに怪しいと思われているのだろう。


「迷惑かけているわけではないでしょう。妙な言い方しないでよ」


そう、素早く取って、迷惑をかけていることはないのだから。

私は、注文が決まったからと、聖子さんに向かって手をあげた。





その次の日も、そして次の日も、工場からの連絡はなかった。

何も連絡がないということは、受け取ってもらったということ。

それならそれで納得できるはずなのに、なぜだろう、今度は、どうして無反応なのか、

それが気になってしかたがなくなる。


「それじゃ、行って来ます」

「伊吹、社長によろしく伝えてくれ」

「はい」


伊吹さんと紘生が手がけた『カントリー風のレストラン』。

本工事が動きだし、二人で確認作業に現場へ向かう。

以前、『FREE』という雑誌でコラボをした家具も好評で、

そこから縁をつないだ仕事の依頼が、いくつか舞い込んだ。

さらに紘生が関わった『エバハウス』からも、新しい住宅に備え付ける家具の発注が、

昨日、社長宛に届き、このメンバーで乗り切れるのかと思えるくらい、

仕事は順調に増えている。

その日は、事務所に残るメンバーがいないことに気付き、

私は少し早めにコンビニへ昼食を買いに出ることにした。


「長峰、外に食べに行ってもいいぞ」

「いいですよ、社長。すぐに戻りますから」


社長は電話番くらい任せておけと言ってくれたけれど、

やはり『社長が電話番』だと思うと、

『COLOR』でのんびりカフェオレを飲む気にもならない。

以前、中華まんを買い込んだコンビニに顔を出し、

暑い中、出かけているみんなが戻ってきたら食べられるように、

今度はアイスをカゴに入れる。

紘生はバニラが好きだから、バニラだけ多めに買っておこう。

他の人も取るかもしれないし。


「1,270円でございます」


アイスの袋と昼食の袋と両手に持ち、私は事務所に戻った。




【60-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
婚約指輪の平均は20~40万。結婚指輪の平均は10~20万。
やはり毎日身につける結婚指輪はデザインが重視され、
飽きのこないものという意識が強い。

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