60 覚悟の笑顔 【60-3】

【60-3】

「社長、すみません戻りました」

「あ……ちょうど戻りましたよ。お待ちください。長峰、電話」

「私ですか」

「そう……えっと、番場さんという男性だ」



番場さん……



「あ……」


『チュースケ』さん。そう、番場さんとはきっと。


「社長、これアイスです。冷凍庫へ入れてください」

「ん?」


私はビニールを社長のデスクに置き、すぐに受話器を握った。


「はい、長峰です」

『はい……番場でございます。覚えていらっしゃいますか』

「はい。番場法律事務所の」

『そうです、あのチュースケです』


紘生のことで、何かあるのだろうか……

私の心の中で、不安の雲が一気に広がりだす。



「あの……」

『長峰さん、申し訳ないですが、うちの事務所へ顔を出していただきたいのですよ』


事務所へ? なんだろう。

もしかしたら、紘生のお母さんあたりが、何か……


「あの……」


社長はビニール袋をのぞき、私がお願いしたように、冷蔵庫の方へ動き出した。

私は受話器に手を当てる。


「紘生のことで、何か……」


社長の耳には届かないくらいの声で、そう尋ねてみる。


『紘生……あぁ、ボンですね。いえいえ、ボンはいいんです。
長峰さんにお願いしたくて』


紘生は関係ない。だとすると……


『いやぁねぇ、法律関係の書類や本を閉まっている戸棚が古くなりましてね。
どうせなら、しっかりとしたものを作っていただこうかと、そう思いまして』

「あ……はい」


番場さんの電話は、仕事の注文だった。

緊張していた気持ちが、一気に解かれていく。


「発注ですね」

『はいはい、発注です。あぁ、そういえばよかったですね』


それならばと、私は自分の手帳を開き、打ち合わせの入っていない日を探す。


『これから来ていただくっていうのは、ずうずうしいですかね』

「エ……これから、ですか?」


目の前には、アイスを冷蔵庫に入れてくれた社長が、

ちょうど新聞を広げたところだった。

私の視線を感じ、何かあるのかと、目の動きで聞いてくれる。


「あの……仕事の発注電話なのですが。事務所の本棚を作りたいということで」

「あぁ」

「それが、よかったら今から場所を見に来てくれないかと」


遠くに出かけた伊吹さんと紘生は無理だとしても、

優葉ちゃんたちはそれほど遅くならないだろうが。


「いいぞ、行ってこい。電話の雰囲気だと、知り合いの方なのだろう」

「はい……でも」


社長が一人になってしまう。


「だから言っただろう。電話番くらい、きちんとやれるぞ。
『COLOR』なら、昼飯くらい運んでくれるから大丈夫だ」

「……はい」


社長の言葉に甘えて、私は番場さんの事務所へ向かうことにする。


『無理を言って申し訳ない』

「いえ」

『あの……ボンには内緒で』


紘生には内緒? なぜだろう。


「何か……」

『いえいえ、年明けにボンが事務所へ来てくれた時に、
まだまだ使えるからいいと言い張ったんですよ。
それなのに、作り直したいというのは、あまり格好のいいものじゃないですしね』


番場さんは、今回は長峰さんにということを強調し、電話を切った。

番場さんの事務所。一度行っただけだから、最寄り駅は覚えているけれど、

道まで、頭に残っているだろうか。

私は、コンビニで買ってきたサンドイッチを出し、PCで地図を調べると、

迷子にならないように、道のりの予習をすることにした。





『ボンには内緒で……』



その時にはわかりましたと答えたけれど、なぜ、内緒にしないとならないのだろう。

番場さんが言ったような理由だと思うと、どこかに違和感がある。

紘生のことではないかと言ったとき、『違う』とそういえば言われなかった。


以前、お母さんが書類を突きつけてきたとき、あの横田さんという弁護士は、

番場さんの事務所の人だったし……



もしかしたらまた、机と椅子を送ったことで、

何か、言われるのだろうか。



駅の改札を出た後、商店街の中を歩く。

その足取りがだんだんと重くなり、

あとビル3つ分というところで、止まってしまった。




【60-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
婚約指輪の平均は20~40万。結婚指輪の平均は10~20万。
やはり毎日身につける結婚指輪はデザインが重視され、
飽きのこないものという意識が強い。

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