60 覚悟の笑顔 【60-6】

【60-6】
「社長……」

「ん?」

「こんなときくらいは素直に言ってあげてください。
相手は『ボン』じゃないのですよ。長峰さんが困るじゃないですか」

「困る?」

「そうですよ」


番場さんはそういうと、小切手を手に取り、両手で持つ。


「長峰さん」

「はい」

「これは材料費、制作費、デザイナー料金。
そして……ボンとあなたの未来へのお祝いですよ」



私と紘生への祝い。



「番場、余計なことを言うな。材料費と制作費だ」


紘生のお父さんは、そういうと希望の大きさが書かれた紙をテーブルに置いた。

本当に書類の棚を作って欲しいと、そういうことなのだろう。


「あの……」

「もう一度、念を押しておきます。あなたが作ってください。
いいですね」


私が……


「番場、この缶コーヒーは意外にうまいな」

「そうなんですよ社長。今は缶だからといって、バカには出来ませんよ」

「そうだな」


紘生のお父さんは、ポケットから携帯を取り出すと、電話をかけ始めた。


「もしもし……そろそろ車を頼む」


どこかに運転手さんが待っているのだろう。

ビルの下に来るように、指示を出している。


「あの……これ」


それにしても、高額の小切手。

戻そうとした私の手を、番場さんが優しく止める。


「社長は、ボンの父親ですからね。素直な男ではないのですよ。
ここはひとつ……」

「番場。お前に言われたくはない」

「あぁ、はいはい」


『認める』という言葉はないけれど、間違いなくお父さんは、

私と紘生の行き方を、受け入れようとしてくれている。


「長峰さん」

「はい」

「紘生は、意地っ張りで、頑固なところがありますから、
嫌だと思ったら、さっさと捨ててください」

「エ……」


『捨ててくれ』だなんて、こんな話し、頷けない。


「でも、付き合う価値があると思うのなら、とことんつきあってやってください。
よろしくお願いします」


お父さん……


「また、会いましょう」


紘生のお父さんはそういうと、事務所を出て行ってしまう。

あまりにもあっけなく出て行ってしまったので、タイミングを外してしまったが、

私は、張り付いていた足を動かし、慌てて扉を開ける。


「ありがとうございます」


聞こえていないはずはないけれど、お父さんは背中を向けたまま、階段を下りていく。

足音がだんだんと遠くなり、やがて聞こえなくなった。





「驚きました。まさかここでお会いすることになるなんて」

「申し訳ない。それでも社長がぜひというもので」


紘生のお父さんが帰った後、私は事務所の中で、コーヒーを一気に飲んだ。

喉がカラカラになるという現象を、久しぶりに味わってしまう。


「あんなふうに言っていましたが、ボンから机と椅子が届いたのは、
嬉しかったようですよ」

「そうですか」

「そうですよ。ボンが『折原製薬』に戻らないことくらい、
社長はずっとわかっていましたからね」


跡取りの一人息子として、紘生を育ててきたお父さん。

話しの中に出てきた、そのために教育してきたという言葉も、ウソではないだろう。

親なら、子供に期待することくらい、当たり前のことだから。


「泣きごと言って、夢に目をつぶって会社に戻ってくるようなら、
逆にガッカリしたかもしれません」


イタリアで仕事を放棄した紘生。

お父さんは、その後の彼の動きを、ほぼ全て知っていたと、番場さんが教えてくれる。


「外国の時もですか」

「外務省関係者とも、社長は知り合いがいますし。日本へ戻ってきてから、
手がけてきた仕事のことも全て、ご存知でしたよ。『エアリアルリゾート』でしょ、
それに『エバハウス』のことも、そうそう『ナビナス女子大』の寮もね」


互いにそっぽを向いていても、関係ないと口では言っても、

誰よりも気になるのが、親子というもの。


「息子の作った机と椅子。嫁が作った書類棚。社長の理想なのでしょう」



嫁……



「ボンと幸せになってください。
幼い頃から面倒を見てきた、チュースケからのお願いです」

「番場さん」

「ですからこれは、受け取りましょう」


制作費とはとてもいえないくらいの金額が入った小切手。

『おめでとう』と言えなかったお父さんの、精一杯の思い。


「あ、番場さんの事務所でも、何か発注しますか?」

「いやいや、うちは貧乏事務所ですから、これで十分ですよ」


番場さんはそういうと、堅くなってしまった本棚の扉を、必死に動かした。




【61-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
婚約指輪の平均は20~40万。結婚指輪の平均は10~20万。
やはり毎日身につける結婚指輪はデザインが重視され、
飽きのこないものという意識が強い。

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