61 発表の余韻 【61-1】

61 発表の余韻

【61-1】
「チュースケのところで?」

「そう。お父さんがいらして、心臓止まるかと思った」

「親父、何か言った?」


その日の夕食を食べながら、今日の出来事を全て紘生に語った。

お父さんが机と椅子を受け入れてくれたこと、それに理由をつけて、

今度は棚を発注してくれたこと。


「これ……」

「……は?」


紘生の前に、渡された小切手を出してみた。

やはり、その金額の多さに、驚きの声をあげる。


「チュースケさんが、私たちへの祝い金だろうって」


お味噌汁に口をつけて、豆腐が喉を通ったことを確認し、お椀を置く。


「材料費とデザイナー料金だって、最後まで言い続けてくれたけれど、
それじゃ、バランス悪いでしょ」


本当なら、紘生と向かい合って渡したいところだろうけれど、

それが出来ないのが、折原家の親子関係で、

大きな会社を束ねる立場として、こういった結論を出した息子を、

正々堂々と認められない立場にある。


「私は困りますって言ったの。でも、チュースケさんが、親子で素直になれないから、
受け取っておいてって」


素直ではない親子の形、そのチュースケさんのセリフを聞いた紘生の口は、

そこから全く動かなくなった。

どうしてなのかわかるだけに、私も言葉を止める。

互いに食事を食べ進めている箸の音や、皿の音だけが聞こえた。

しかし、そのスピードは次第に落ち始め、数分後には紘生は箸さえ動かさなくなる。


きっと喉を通らないのだろう。

紘生は箸をおき、小さく『ごめん』と言うと、席を立った。

リビングから自分の部屋へ入ってしまう。


「ふぅ……」


一人になりたい時間もあるはずだから。

そう、だから私は、黙ったままでしばらく椅子に座っていた。



でも……



そんな私自身が、一人でここに座っていることが、寂しくなって……



だって、あの扉の向こうに、紘生がいることもわかっているから。



もう少し、そっとしておかないとと思いながらも、

紘生の部屋の扉を、軽くノックしてしまう。


「ねぇ、入ってもいい?」


部屋の中から、『うん』という声が聞こえた。

私は扉を横にずらし、中へ入る。

ベッドに横たわっていた紘生の目は……



……潤んでいるように見えて。



「紘生……」

「うん……」


何も言わなくていい。きっと私が思っていることは、間違っていないから。

私はベッドの空いている場所に腰かけ、横になっている紘生の右手を、

そっと握りしめた。





紘生はきっと、泣いていたのだと思う。

涙を流していたわけではないけれど、心はきっと、泣いていたはず。

長い間、互いに背を向けていた親子関係。

『認める』とか『許す』などと言われたわけではないけれど、

精一杯手がけた作品を受け入れてくれたことが、何よりの証拠。



願いをかなえず、逃げ出してしまった息子。

それでも親は、旅立ちを祝福し、『幸せ』を願うのだと……



紘生は、初めて、親の大きさや深さに気付いたのかもしれない。



だから……



泣けてきたのだろう。





「ただいま」

「おかえり」

「あ……なんだかいいにおいだけれど、何?」

「お隣の田中さんがおすそ分けしてくれたのよ」

「へぇ……」


その週末、私は一人、千葉の実家へ戻った。

折原家の親子関係に触れたからだろうか、あらためて自分の親の顔が見たくなった。

そして……


「あら……」

「うん」


夕食を終えた後、父と母の前で、紘生からプロポーズされたことを話した。

父は黙っていて、母はほっとしたのか大きく息を吐く。


「紘生は、お父さんへ贈る家具を作ってからと思っていたみたいなの。
どういう形になっても、しっかり自分の歩む道を宣言して、それからって。
だから、先に同棲の形になってしまったことも、謝ってくれた」

「そう……それで、机と椅子は」

「うん、突然会社に届いたことは驚かれたようだけれど、
でも、受け取ってもらえたの」

「そう、よかったわね。努力が無駄にならなくて」

「うん」


そう、跳ね返されても仕方がないと、紘生は言っていたけれど。


「私、紘生のお父さんにお会いした」

「お父さんに?」

「うん……」

「何か、話したのか」

「うん……私の名前も知ってくださっていた。それでね、机と椅子を置くと、
今まで使っていた書類の棚が合わなくなるから、それを私に作って欲しいって」

「知花に?」


母は、座っていたソファーから、身を乗り出すようにそう言った。




【61-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原国男】
紘生の父、『折原製薬 食品部門』のトップ。
紘生が学生時代、内緒でデザインを学んでいたことを知り、関連する物全てを捨てる。
それから何年間も、一切、連絡を取っていない。

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