61 発表の余韻 【61-3】

【61-3】
「飲みたいのなら、作ってあげようか」

「いや、いいよ。今日はもう寝るし」

「そう……」


実家へ戻ってくると、やはり母との会話が一番多い。

中でも弟とは、向かい合って話すことなど、それほど多くないかもしれない。


「前に連れて来た人と、ダメになっただろ。姉ちゃん、すぐに落ち込むし、
これでどんどんネガティブな人間になるんじゃないかと、俺なりに心配したわけよ」


『前に連れて来た人』

そう、幹人と挨拶に来た日、知己も家にいてくれた。


「悪かったわね、色々と心配をかける姉で」

「そうそう、その通り」

「何よ。知己だって、親に色々と心配かけてきたでしょ」


今だから笑って話しているけれど、中学の頃には立派な反抗期があり、

家の壁にいくつか穴を開けたことだってあった。

トイレに閉じこもって、誰も入れなくしたために、母が裏から回り、

窓を開けて怒鳴ったこともあって……


「あはは……」

「何笑うんだよ、いきなり。気持ち悪いぞ」

「違うわよ。知己が一人前のことを言っても、
半人前だった頃の記憶があれこれあるから、それが邪魔をして、笑えちゃうわけ」


今、何を言ってみても、そう、私の中には幼い頃からの記憶が、

しっかりと詰まっている。


「ひでぇな、それ」


小さなグラスを真ん中に、姉と弟で向かうあう。


「でも心配しなくてよかったんだな」

「ん?」

「姉ちゃん、ものすごく明るくなったからさ」



知己……



「いい人なんだろうな、その人」



突然、そんなふうに言われてしまうと、何も言葉が返せない。

年下のくせに、生意気な口をきかれてしまって……


「そうよ、いい人よ。ケンカもするけれど、
その数倍分り合えるところがたくさんあるから、毎日一緒にいて楽しいの」

「ふーん……」


そう、紘生といること全てが、色々な発見につながる。

今日、そして明日、また新しい気持ちで向かい合える。


「知己は、そういう人、いないの?」

「今はいないな」

「あら……」


梅酒効果だろうか、これだけ知己が話してくれることなど、滅多にない。


「俺さ、家を出ようと思ってる」

「一人で暮らすの?」

「うん……やっとその決心がついた」


慣れてきた会社でも辞めるのか、それとも一緒に暮らしたい人がいるのか、

私は質問をぶつけていく。


「仕事も辞めないし、彼女もいないって今、言っただろう」

「だったらどうして」

「旅行をプレゼントしてさ、あの二人、これからも仲良くやってくれるだろうなと、
そう思えたからね」


頭にかぶせていたタオルで、もう一度軽く髪の毛を拭くと、

知己はそのまま肩にかける。


「姉ちゃんはさ、大学を出て、さっさと出て行っただろ。
その後、今だから言うけれど、結構お母さん落ち込んでいて、
ため息ばっかりついていることが多くてさ」

「ため息?」

「そうだよ。姉ちゃんの部屋に入って、意味なく本棚の本、見つめてたりね」


知らなかった。

私には、そんな姿、母は見せたことがない。


「そういうの見ちゃうとね、俺は出られなかったんだよ、今まで」


知己の本音……なのだろうか。


「いや、姉ちゃんを責めているわけじゃないよ。間違ってなんていないし、
母さんだって、いつまでもそんなふうだったわけじゃないから」


知己はそう言いながら、また梅酒を一口飲む。


「ようは、ここは居心地いいけれど、俺も成長しないといけないと思ったから」


知己は、今回の旅行中、母親がいないことで、

初めて自分自身、何も出来ない人間だったと思えたらしく……


「だから、これからは姉ちゃんも、もっと帰ってきてやってくれよ」

「……うん」


私が家を出てしまっても、ここには知己がいた。

だから、当時、一人暮らしをすることに躊躇もなかったけれど、

確かに、二人きりにしてしまうと思うと、腰を上げられたかどうかわからない。


「お父さんたちには話したの」

「うん、もう話してある。仕事が比較的楽な8月いっぱいでと思っているんだけどね」

「へぇ……どこあたりに住むつもり?」


千葉の実家から、もう少し交通の便がいい、都心に近い場所に住むのだろうか。

もし、こっちに近くなるのなら、私たちのマンションにも遊びにくればいいと、

話をつけたしていく。


「あぁ、いやいや、西野あたりで……」

「は? 西野?」


西野というのは、うちから電車で言えば2駅しか離れていない。

あまりにもご近所過ぎて、力が抜けてしまう。


「それって」

「距離じゃないんだ、気持ちの問題だ」


知己はそういうと笑いながら、いらないといっていたのに、

私の梅酒を全て飲み干してしまった。




【61-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原国男】
紘生の父、『折原製薬 食品部門』のトップ。
紘生が学生時代、内緒でデザインを学んでいたことを知り、関連する物全てを捨てる。
それから何年間も、一切、連絡を取っていない。

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