61 発表の余韻 【61-4】

【61-4】

「あはは……」

「全く、何を言っているのかと思って構えたのに」

「いやいや」


実家から戻った後、私は紘生に知己のことを話した。

紘生は目覚まし時計を持ち、知己の言うとおりだと頷いていく。


「確かに距離じゃないよ、知花。精神的に独立をするということだろ」

「うん、そうみたい」

「そうすれば親のありがたみもわかるようになるし、また一つ強くなるよきっと」

「……うん」


食器戸棚の下にある小さな引き出し。


「電池、取り替えるの?」

「うん」


紘生が一人で住んでいた頃から、使い続けている目覚まし時計。


「今は、ソーラー電池のものとか、色々とあるのに」


いちいち電池を交換しなくてもいいものも、売り出されている。


「知っているよ。でも、音が好きなんだ、これの」

「音?」


目覚ましの音なんて、それほど違うだろうか。

ジリリリという、確かに昔ながらの音だけれど。


「あの、ピピピっていう電子音が、どうも好きじゃなくて」


紘生は、ソファーに座り、持ってきた電池をテーブルに置くと、蓋を開けた。

ビニールに包まれている電池を2本取り出し、

プラスとマイナスの方向を間違えないように入れている。


「一日の始まりだからさ。嫌な音で起きたくなくて」


紘生の背中。

そういえば、後姿って、あまり見ていないかも。


「嫌な音ね……」

「うん」


私はそうなんだと言いながら、紘生の後ろに回り、背中から腕を回す。


「……何?」

「別に……こうしていたいだけ」


何気ない出来事。でも、目覚ましの電池をかえる紘生の姿が、

なぜだかわからないけれど、愛おしく思えた。

これから、ずっと、ずっと長い間、私たちの人生は、重なり続けていく。

少しでも前に進んでいるのだと、感じられる時間が、ただ楽しくて。


一日の始まり。


確かに、目覚めたくなる音で、起きたいかもしれない。


「知花」

「何?」

「結構、重いけど……」

「エ!」


紘生は冗談だよと言いながら、生まれ変わった目覚まし時計をテーブルに置く。


「ひどい」


せっかくいい気分でいたのに、急に現実に戻された。


「だから冗談だって。慣れていないことをされると、照れくさいんだって」


照れくさいと言った紘生の耳は、確かに赤くなっている。


「エ……やだ、本当、照れてる」

「知花!」


紘生の腕に捕まりそうになる瞬間、少し横にずれてみた。

紘生はなんだよと言いながら、ソファーで横になる。

あと少しで洗濯が終わるから、一緒に買い物に出かけようと声をかけ、

私はリビングを出た。





「はい、『DOデザイン』でございます」


優葉ちゃんの声にデザイナーたちの顔が上がる。


「はい、伊吹ですね、少々お待ち下さい」


電話は伊吹さん宛で、優葉ちゃんは電話を保留にした後、

相手が『宮野建設』さんだと、説明する。伊吹さんが受話器をあげ、

そこからまた、ビジネストークが展開した。


「長峰」

「はい」


社長に呼ばれ、とりあえず前に出る。

社長は、紘生のお父さんが発注してくれた棚の仕事を、

正式に『DOデザイン』で請け負うことにしたと、言ってくれた。




【61-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原国男】
紘生の父、『折原製薬 食品部門』のトップ。
紘生が学生時代、内緒でデザインを学んでいたことを知り、関連する物全てを捨てる。
それから何年間も、一切、連絡を取っていない。

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