61 発表の余韻 【61-6】

【61-6】
『結婚します』



それなりに報告はどうしようかと考えていたのに、社長の爆弾発言で、

全てがなくなってしまった。

それでも、今思うと、私たちらしくて、『DOデザイン』らしくて、

よかった気がしてしまう。


「あはは……知花、ほら、見てみて。あれ……」


紘生はソファーに横になったまま、楽しそうにテレビのバラエティー番組を見続ける。

私は、財布から買い物のレシートを取り出し、

簡単ながらいつもつけている家計簿に貼り付け、金額を記入する。

とりあえず住める場所があって、私たちは両方仕事も持っている。

このまま役所で書類をもらって、二人の名前を紙に記入し提出すれば、

結婚できることは間違いない。



でも……



「あぁ、何しているんだよ、どうしてそっちに行くかなぁ……
ダメになるのわかっているのにさぁ」


テレビに出てくるお笑いタレントに、ダメだしをしながら、

また軽くお酒を飲む。



『折原知花』

そう、豪華な式など望まないし、仕事に一段落がついたら、

二人で『イタリア』に行って、紘生の過去を少しだけ見てみたい。

紘生がどういう人たちと、

家具デザイナーの仕事を突き進むべきイメージを作ってきたのか、

私もそれを知ってみたい。


そう、今のままでも、何も変わらない日々は続けられるだろう。


でも……



やり残したことがある状態では、きっと、心から喜べない。



私は、計算機代わりにしていた携帯の登録番号を上から下へと流していく。



『古川紗枝』



『コンスタン』の高梨さんと揉め事を起こした日。

それから後は、お会いしていない。


「知花、ごめん、何か飲み物くれる?」

「うん……」


私は携帯を閉じ、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。



「折原の家に?」

「そう。やっぱり、長峰家に行く前に、挨拶させてもらうべきだと思うの」


日々のことを終え、私も紘生がくつろぐソファーへ座った。

そして、思ったことを口にしてみる。

もちろん、結婚を反対されても、諦めるつもりはないし、

このまま強引に籍を入れても、生活が出来ないわけではない。

職場の人たち、長峰家の人たち、紘生と私の友人たち、

きっと、喜んでくれる人たちは、たくさんいるだろう。


「子供なんて、思い通りにならないものだと、そう以前、番場さんが言っていたでしょ。
仕事を選択する自由だって、私たちにはあるのだから」

「あぁ……」

「でも、紘生を育ててくれたお母さんなのだもの。気持ちを無視してしまうのは、
やっぱり」


私のことなど気に入らないのはわかっている。

それでも、二人で歩むことを報告し、納得してもらいたい。


「長峰の両親からも言われているの。折原家のご両親との距離を、
なるべくあけないようにって」


少しニュアンスが違うかもしれないが、父が言いたかったのは、そういうことだと思う。

『会ってもらえる努力』。

それは、修正出来る距離を、常に保つこと。

私たちが、何も言わずに進めてしまったら、その距離は保てない。


「会わないと言われたら」

「そうしたらまた時間を取って、もう一度会ってもらう」


そう、季節がひとつ移り変わったくらいで、また、お願いしてみる。


「じゃぁ、結婚に反対だって言われたら。ほら、また、くだらない書類とか出されてさ」

「それがお母さんの抵抗なら、ある程度までは付き合ってあげないと」

「……知花」

「極端な話、籍なんてまだ入れなくてもいいの」


二人で一緒にいられるのだから……


「何言ってるんだ、ダメだよ。それじゃ、俺が長峰のご両親に申し訳が立たない」

「うち?」

「当たり前だろう。本来なら、同棲から始めていること自体、失礼な話なんだ。
俺たちに籍を入れるつもりがあると信じてくれたから、許してもらえたのだろうし。
それを、うちの親があれこれ言うから、入れずにこのままって、それはダメだ」


紘生はそういうと、自分たちのペースで組み立てていって、

その報告を入れればそれでいいと言いながら、ソファーから立ち上がる。


「全く無視しようというわけじゃないんだ。仕事を勝手に選んでおいて、
結婚の方は、そちらの出方を待ちますって言う方がおかしいよ。
知花、あまり深刻にならないほうがいいって」

「紘生……」

「風呂に入るわ」


紘生はそういうと、リビングを出て、お風呂に入ってしまった。



『結婚することになりました』



盛り上がってくれた『DOデザイン』の人たちの顔を思い浮かべながら、

私は携帯電話で、ある人の名前を呼び出した。




【62-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原国男】
紘生の父、『折原製薬 食品部門』のトップ。
紘生が学生時代、内緒でデザインを学んでいたことを知り、関連する物全てを捨てる。
それから何年間も、一切、連絡を取っていない。

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