62 緊張の再会 【62-6】

【62-6】
どう、切り出したらいいのだろう。

私が出来ることは……


「紘生……」

「はい」

「お前には、私なりに理想も期待もあった。人は、環境に影響を受ける生き物だ。
多少の悩みはあっても、これが自分の歩むべきものだと、そう信じ進んでくれると、
疑わなかった」


紘生は、『折原製薬』の一族として生まれ、長い間、その環境の中にいた。

周りからの期待も、ずっと感じてきただろう。


「風の便りでお前の生き方を知っても、どこかで気持ちを変えるはずだと、
最初はそう思っていた」


お父さんの、落ち着いた口調。

今現在というより、過去をたどっていくような、そんな言い方。

過去の恨み辛みをぶつけているというより、止まってしまった時をなんとか動かすため、

胸に溜めてきた言葉を、前に、前に押し出している気がする。



紘生は、何を言うだろう。



「お前の作ってくれた机と椅子は……」


紘生の作り出した机と椅子。

長い間、背を向け続けてきた月日を、表現するために選んだ方法。


「……いろいろな意味で、私には重かった」


お父さんはそれだけを言うと、黙ってしまった。

期待してきた息子からの、決別宣言。

それを受け取り、受け入れた思いは、どれほどのものだっただろう。


「父さん」


紘生の声が聞こえるたびに、私の鼓動が速まった。

一緒に生きていくと決めたのだから、何か助けてあげられたらと思うけれど、

ここには、入り込む隙間がない。


「俺は、自分の選んだ道を後悔してはいません。
何をしていても、どう気持ちを揺さぶっても、
『デザイン』という世界をあきらめることが出来なかった。
いや、あきらめるというのは、自分自身でいることを、
あきらめてしまうことだと気づいたから……だから、飛び出した」


自分一人では動かすことなど出来ない、大きな『折原製薬』という存在。


「最初は、こんなふうにしようとは全く思っていなかった。折原の名前を捨てて、
二度と、考えないようにして生きていくことが、自分のすることだと思っていたから」


私と出会った頃、紘生は『三村』を名乗っていた。

『折原』のことを探られることを、指摘されることを、何よりも嫌がった。


「でも……考え方が変わった。自分が間違ったことをしていないと思うのなら、
正々堂々と、折原の名前を名乗るべきだと思うようになった。
ここいにる、知花の……おかげで」



私……



「知花と……彼女と出会えたことで、俺はこの世で絶対に一人にはならないと、
そう思えるようになった。同じものを見て、
同じように感動できる人に出会えたことで、過去と向き合う気持ちにもなれた」


互いに言い合った日、それでも、嫌いという思いより、惹かれるものの方が、

数倍多かった。気づくと、自分の人生に欠かせない人だと、自然に認識できた。

私が、紘生に救われたと思っているように、紘生も……


「父さん、俺は……一生そばにあってほしいものに、出会うことが出来ました。
二人に、何も残してもらえなくても、大丈夫です」


会社も、地位も、名前も、何もいらない。

信じられる仕事と、信じ合える相手がいれば、それだけでいい……



それは、私も同じ。



「長い間、ご迷惑をおかけしました」


全く同じ気持ちだったから、少しでも寄り添っていたいから……

だから私も、一緒に頭を下げる。


「そうだな、色々なところに迷惑はかけたな……それは反省しなさい」

「はい」


一緒に仕事をしてきた仲間、業者の人、

そして、思いがけず裏切り者となってしまった久我さんや、

紘生の姿を追い続けてきた紗枝さん。


「知花さん」

「はい」

「まぁ、このように、わがままで身勝手で、それでいて人一倍頑固な息子ですが、
あなたを頼っているようです、どうか、これからもよろしくお願いします」

「いえ……私の方こそ……」


そう、私の方こそ、紘生に色々と助けてもらった。

彼がいなければ、私に出会ってくれなければ、今はなかったはず。



ずっと、ずっと……

耐えることがいいことだと、思い続けて生きていただろう。



「紘生さんに、私は感謝仕切れないほど、助けてもらいました。これからもきっと、
そうだと思います。何をしても自信がなくて、すぐに迷って……」


ダメかも、無理かもと、迷い続ける。


「私にも、紘生さんは必要な人です」


相変わらずの、口べた。

それでも、紘生のお父さんは、柔らかい表情を浮かべて、聞き続けてくれた。

心臓、どこかで止まるかもしれないと思えるくらい、大きく鼓動を打ち続ける。


「あ……そうだ。家内が、知花さんの作品を、数点買いまして」

「エ……」

「ジュエリーボックスだったかな。つきあいのある友人や、仕事先の人に、
渡していました」



ジュエリーボックスを……紘生のお母さんが。



思いがけない話に、言葉がそこから続かなくなった。




【63-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
共働きの夫婦は、59%(2012年総務省労働力調査)で、半数を超えているが、
特に、地方(山形、福井、島根など日本海側)の割合が高く、
東京や神奈川など都市部では低い。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2901-a03419b9

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
472位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>